巡りめぐっていいモノ作りへ TOTOが目指す「静かなる存在感」

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   ハッとする素材感のバスタブがあったので、西新宿にあるTOTOのショールームに伺った。思わず触りたくなる。なぜていたくなる。「ルミニストバス」というバスタブで、9月に発売されるものだそうだ。

「家に人を招いたら、見せびらかしたくなる」

LEDの光により幻想的な空間を演出
LEDの光により幻想的な空間を演出

手作業による鏡面仕上げで「冷たさ」が消えた
手作業による鏡面仕上げで「冷たさ」が消えた

   真っ白だけれど透明感のある素材で、その表面がフロスト加工と呼ばれる霜がおおったような表情。触ってみれば当然堅いのだけれど堅さではない手触りがある。奥行きの不確かさが最大の魅力だ。そしてそれを補い深めるのがバスタブは底の周囲にグルッと回るLEDの光だ。これは家に人を招いたら、とりあえず見せびらかしたくなるだろう。いっそ風呂に入っていってもらいたくもなる。そんな魅力があるバスタブだ。

   TOTOが目指すのは「静かなる存在感」だと言う。このバスタブはまさにその言葉を感じさせるものだ。

   TOTOの方にショールームを案内していただいたのだけれど、やはり一気にこのバスタブができたわけではないとのこと。いろいろと社内で考え、モノ作りの方法を悩み、試行錯誤した結果から、こうした素材感まで活かしきったと納得できる商品が登場してきたのだそうだ。

   毎年開かれているミラノサローネへの出展も大きいようだ。サローネに以前展示し、その後様々なところで評価の高い「ルネッセ」というシャワーや水栓のシリーズがある。ショールームでも一角をこのシリーズが占めているのだけれど、その見事な直線の構成に驚く。これはパリのエリウム・ステュディオによるデザインで、直線的で簡単そうだが、そこが難しい。彼らもTOTOも納得できる鏡面仕上げを実現するためにはデザインの力だけではなく職人の手作業による磨きが必要となったそうだ。

   こうしてデザイナーとエンジニアがしのぎ合い、さらには職人の技の復活までが持ち込まれ、それまで水周りの専門家たるエンジニアの言うことを前提条件として作られていたデザインが、お互いに挑発しあう関係になってきた。これは机の上の話ではなく、TOTO ニュー・マテリアルと呼んでいる商品群として登場している。あのバスタブに至るまでに様々な洗面台でフロスト加工が試されているのもエンジニア側とデザイン側での試行錯誤がそれまでにあった上での結果なのだ。

   ルネッセのシリーズに「360オーバーヘッドシャワー」という、まるで雨に打たれるようなシャワーがある。欧米のメーカーでも同じような発想のシャワーはあるけれど、シャワーの栓を閉じた後にポタポタ、だらだらとヘッドの中に残ったお湯がたれてくるのが美しくないと、これはエンジニア側が気にしたのだそうだ。もちろんデザイナーだってそれがないといいなと思うところ。TOTOのエンジニアたちはシャワーの栓を閉じたらさっと雨上がりになるような工夫に成功したのだそうだ。

   エンジニアとデザイナーが手を組み、職人が手を貸す。これは21世紀のモノ作りのひとつの形になるのだろうと僕は思っている。

坂井直樹


◆坂井 直樹 プロフィル

坂井直樹氏
ウォーターデザインスコープ代表/コンセプター。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授。1947年京都市出身。京都市芸術大学デザイン科入学後、渡米。サンフランシスコでTattoo Companyを設立。ヒッピー達とTattooT-shirtを売り、大当たりする。帰国後、ウォータースタジオを設立し、日産「Be-1」「PAO」のヒット商品を世に送りだし、フューチャーレトロブームを創出した。2004年デザイン会社、ウォーターデザインスコープ社を設立し、ケイタイを初めとした数々のプロダクトを手がける。現在auの外部デザイン・ディレクター。07年9月、新メディアサイト「emo-TV」を立ち上げる。同年12月には、日常の出来事をきっかけにデザインの思想やビジネスコンセプトを書きつづった「デザインの深読み」(トランスワールドジャパン刊)を著した。

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