松井龍哉さん率いるフラワー・ロボティクスは「ロボット」「テクノロジー」という言葉を常に意識しながら、今のためのデザインを考えている。そしてデザイナー自身が作るところから、売るところまで直接たずさわるという、ユニークなスタイルを取っている。毎度、新しい取り組みに驚かされているのだけれど、今回はマネキン。ショーウィンドウの中で自在にポージングするマネキン。動くのだ。展示会などの機会を通してこの存在は世界に知られ、量産が決定、販売とレンタルが始まった。
センサーで人を感知 様々なポーズも
(C)Flower Robotics,Inc.
マネキンは動かないとこちらが思っているから驚く。しかもその頭部は無機質にしてあるからなおさら驚く。ロボットは人間のためになることをする、というのを、狭義で考えたらこんな発想には至らないだろう。ショーウィンドウの中で自在に動くマネキン。発想がとても自由だ。
関節16もあれば充分に表情を出せる
この「Palette」という全身タイプのロボットには上半身に16自由度があると言う。少々難しい言葉だが、曲げる、回転する、などの動きをひとつひとつカウントすればいい。ひとつの関節でも複数の自由度がある。そして複数の関節を使うことで様々な表現ができる。16もあれば充分に表情が出る。
それはまさに私たちの日常的な動きに近い。それをマネキンがして見せてくれる。そこにある服はただあるのではなく、暮らしの中で揺れ動く服の姿を見せてくれるに違いない。世界中からオファーが来たのは当然だろう。
さらにこのマネキンはセンサーによって人を感知し、様々なポーズを見せると言う。このところ21世紀のデザインについての話には必ずセンサーが登場してくる。構造、センサー、神経、情報処理。
現在、21_21 DESIGN SIGHTで開かれている山中俊治ディレクション「骨」展とも通じるところがある。21世紀にデザインを考える時(いや、まさに今の話だけれど)構造、センサー、神経、情報処理というのは常に意識しなければならない。そして21世紀というのはエンターテインメントも視野に入れておかねばならないと実感している。
松井さんが見せてくれた新しいマネキンはまさしく21世紀的なマネキンだ。このマネキンは近い将来もっと発展することはまず間違いないだろう。もっとコミュニケーションを複雑に、しかも気軽にしてくるだろう。人はそこに反応し、ロボットは宣伝機能をしっかりと果たす。
正直に言うとフラワー・ロボティクスのロボットは少し未来を見過ぎていると思っていた。「Palette」を見て驚いたのは、現実との折り合いの場所が産業ロボット以外の場所にもすでにあることが証明されていることだ。新しい可能性が近々さっと広がる気配がここにある。
坂井直樹