あなたの夢は何ですか? 「龍雲」のCDに潜むもの

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永井龍雲
「夢は眠っていないか?」
UPCH-80119 1200円
4月15日発売
ユニバーサルミュージック


   1969年に青春時代を過ごしていた多くの人が、すでに「アラカン(アラウンド還暦!)」だろう。悟りを一つでも開いた阿羅漢ならまだしも、ただのジジイじゃないか、ということになるとつまらない。人生はまだ終わらない。これからだ。

   1969年というのは、アラカンの一部の人間にとっては、かなり特別な年である。ある意味、青春というほど限定的でもなく、人生と言うほど大仰でもないのだが、人間として何かを自分以外の何かに真剣に賭けた時間の、終焉を意識せざるを得なかった年なのだ。

   それは、おそらく太平洋戦争に負けた昭和20年8月15日に、青春・人生を意識していた人間の喪失感に近いものがあったかもしれない。もちろん質もその影響も雲泥の差なのだろうが……。

   それはそれとして。なんの終焉だったのかと言えば、吉本隆明言うところの革命の「共同幻想」の終焉だったのだ。潜む

   1969年1月19日、全共闘運動のシンボルだった東京大学安田講堂が陥落した。

   前日の18日まで、東大は学生の手によって全学封鎖されていたが、機動隊は封鎖を次々に解除、安田講堂を残すだけとなった時点で、引き上げた。そして19日、朝から学生と機動隊の攻防が始まる。放水と催涙弾の機動隊に学生等は投石で応えた。砕かれたブロックが主な武器だった。だが午後6時前、安田講堂は機動隊の手に落ちる。

   安田講堂の屋上で竹ざお、鉄パイプで最後の抵抗を示し、排除された学生は90人だった。

   筆者も安田講堂にいたことがある。陥落の1週間前くらいだったか。そこは、今考えれば修羅場だったと思う。やっさもっさしていたということではなく、そこにいる人間の精神が修羅だったと言う意味だ。綺麗事はなかったように思う。ただ東大生が余りいなかった記憶はある。筆者ももちろん東大生ではなかった。

   その安田講堂事件の写真をジャケットにしたCDがある。永井龍雲の「夢は眠っていないか?」だ。東大に夢を描いていた世代であったろう、そして東大卒の音楽評論家・富沢一誠が作詞している。個人的には夢は眠らせるものだとは思っていないから、問われている意味は分らないが、今の時代にこうした音源が登場したことの意味は、受け止めようと思う。永井の歌自体は、30年以上、変わらずに良い。

   これは、おじさんたちの挽歌。若者は別の音を聴いてくれ。それだけ……。

【夢は眠っていないか?  収録曲】
1.夢は眠っていないか?
2.明日こそ
3.夢は眠っていないか? (カラオケ)
4.明日こそ (カラオケ)

加藤晋



◆加藤 普(かとう・あきら)プロフィール
1949年島根県生まれ。早稲田大学中退。フリーランスのライター・編集者として多くの出版物の創刊・制作に関わる。70~80年代の代表的音楽誌・ロッキンFの創刊メンバー&副編、編集長代行。現在、新星堂フリーペーパー・DROPSのチーフ・ライター&エディター。

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