これはアートそのものだ 「iida」の草間彌生ケータイ

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   僕はauの外部デザイン・ディレクターという仕事をしているけれど、今回のauの新ブランド「iida」についてはまったく関わっていない。4月7日、久しぶりに部外者の気分で新しいケータイの発表会に参加した。驚くものはいくつもあったけれど、やはり何よりも「Art Editions : Yayoi Kusama」として発表された3つのケータイほどの驚きはないだろう。デザインとアートが近づいてきていると、このところ感じていたけれど、そんな思いを一気に追い越してしまったようなケータイだ。とはいえ、ケータイである前にこれはアートそのものだ。

ユニークな3つのコンセプト

ケータイを別物にした草間さんの水玉マジック
ケータイを別物にした草間さんの水玉マジック
犬の置物が充電器になっている
犬の置物が充電器になっている

   3つのケータイのコンセプトも面白い。まず「ドッズ・オブセッション、水玉で幸福いっぱい」。かつて草間彌生さん自身が作った水玉の世界を鏡で無限に展開したものを小箱で再現。この小箱は充電器になっていて、そこにやはり水玉模様のケータイをセットして、覗くための場所から見ると無限の水玉世界がそこに広がるという仕組み。

   2つめは「私の犬のリンリン」。やはり作品とのつながりがあるのだけれど、この犬が充電器になっている。犬をペットとしてかわいがるように、今やケータイは誰もが一番かわいがっている道具なのかもしれない。犬の置物と同じ水玉模様のケータイというのも離れていても一緒、というペットを飼う人の気持ちに通じる。

   3つめは「宇宙へ行くときのハンドバッグ」。やはり作品に基づいての展開だけれど、確かに宇宙へ、というくらいに今のケータイから離れている。これは確かに前衛芸術としてのケータイだ。

   会場には当の草間さん自身が登場。ケータイとおそろいの水玉の洋服。実にインパクトがあった。挨拶の後、草間さんが「わたし、このiidaのケータイ電話を愛している。作ってくれてありがとう」と話し、自作の詩を朗読し、歌まで披露された。それまでKDDIの新ブランド発表会だったのが一気に前衛芸術の場になってしまったのにも驚いた。草間さんのパワーが会場を覆い尽くしたような不思議な雰囲気になった。改めて草間さんという表現者をその場にいた全員が感じていたに違いない。

   これは第一弾で、これからもiidaからはアーティストと一緒に作り上げたモデルを発表していくそうだ。果たしてこのケータイがアート市場に作品として受け入れられるものなのか、それともケータイ市場の中に留まるものなのか、発売日が楽しみだ。

坂井直樹




◆坂井 直樹 プロフィル

坂井直樹氏
ウォーターデザインスコープ代表/コンセプター。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授。1947年京都市出身。京都市芸術大学デザイン科入学後、渡米。サンフランシスコでTattoo Companyを設立。ヒッピー達とTattooT-shirtを売り、大当たりする。帰国後、ウォータースタジオを設立し、日産「Be-1」「PAO」のヒット商品を世に送りだし、フューチャーレトロブームを創出した。2004年デザイン会社、ウォーターデザインスコープ社を設立し、ケイタイを初めとした数々のプロダクトを手がける。現在auの外部デザイン・ディレクター。07年9月、新メディアサイト「emo-TV」を立ち上げる。同年12月には、日常の出来事をきっかけにデザインの思想やビジネスコンセプトを書きつづった「デザインの深読み」(トランスワールドジャパン刊)を著した。

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