寺門孝之さんは最近ではすっかり人気画家。天使や夢のような風景の絵を作品としてだけでなく、本の表紙やポスターの形でもよく目にする。そんな寺門さんの個展が表参道の「ピンポイントギャラリー」で開かれている。「猫とねずみとぼくらのオペラ」と題された展覧会には2冊の絵本の原画を中心にした作品が並べられている。
「絵本の中の絵とぜんぜん違う」
展覧会の壁に飾られた作品はどれもほのぼのとしたもの
たまたまギャラリーにいらっしゃった寺門さんができあがったばかりの絵本を手に教えてくれた。「絵本の中の絵と比べるとどの絵もぜんぜん違うんですよ。」
言われるまで気づかないものだが、改めて見ればどの絵もまったく違う。これはもうギャラリーで見比べていただくしかないのだけれど、寺門さんは今回、長らく封印してきたとご本人が言うデジタル手法を取り入れたのだそうだ。つまり、一度描いた自分の絵をデジタルの中で構成を変えていったのだ。いわばコラージュだ。そして最後に実際の絵に対しても、舞台構成は変えずに要素の位置を変え、作品としての仕上がりに変化を与えた。
寺門さんは以前CGやデジタルコンテンツの制作に携わっていた。水彩画で日本グラフィック展大賞を受賞したのをきっかけにフリーランスの画家となった。彼の絵の向こうにデジタルな気配はかけらもないが、知識は十分にあったわけだ。水彩画もCGも寺門さんの道具としてそこにあったわけだ。ただしいい加減に持ち出すのではなく、これこそというテーマだからこそ使ったのだろう。「ぼくらのオペラ」と題した絵本は1995年の阪神大震災の経験以降温めていたイメージだと言う。再生、さらには創生していくことの喜びがある。この作品だからこそ寺門さんは、こだわりを外し、デジタル手法を組み合わせたのだろう。
坂井直樹