オヤジの顔が「3000枚」
動きの振り付けはラッキー池田さん
ロトスコープという言葉をご存知だろうか。フィルムなりビデオなりで動画を撮影し、それを元に動きを取り込んでアニメーションに持ち込む、CGの動きに置き換える。ディズニーのあまりに滑らかなアニメーションはまさにこの手法で作られている。今回、しりあがりさんはロトスコープを使ってのチームプレイをしている。きっちり進化しているのだ。
しかし同じ技法がしりあがりさんの手にかかると、まったく違う世界に持ち込まれる。計算ずくのいい加減さで動きはなぞられ、滑らかとは言えないぎこちなさが前に出てくる。それが味になり、作風になる。もっともここに至るまでにすでに数年費やしていることも事実で、しりあがり寿という天才のしたたかさも感じる。
このギャラリーとしりあがりさんとの関係もゆるく深い。2004年5月の「オレの王国、ちょっと橋から見てみてよ」はきっとひとつの起点だったのだろう。ギャラリーの天井から床まで、ギャラリー自体を包み込む、ひと続きの絵。これは「王国シリーズ」となり、しりあがりさんはこの後、大きな面積で描くことに挑戦し続けた。横浜美術館の「日本×画展 しょく発する6人」(2006年7月)が最たるものだ。
そして今回、王国ではなく、ユルメーションという新しい世界が同じギャラリーを埋めた。今回はチームプレイだ。王国は1人作業。ユルメーションは静止画をつなぎつなぎ、そこに今までの動画にない不可解な味わいを持ち込んだ。しりあがりさんはきっといい加減そうな指示をしつつ、ユルさを最大限に発揮するという、普通の人には理解できない作業を、あの笑顔で続けていたに違いない。ゆるさをコントロールするという、とんでもない天才の姿がここにある。
坂井直樹