最弱戦車が活躍するアニメ「やわらか戦車」。ネットアニメで火がついた「やわらか戦車」は07年10月に、あの「鉄腕アトム」とコラボ(=「やわらかアトム」)を実現させると、08年10月には、その「やわらかアトム」を収録したDVD「やわらか戦車~YAWARAKA TANK2~」が発売されている。
そこで、J-CASTモノウォッチ記者は作者のラレコさんを直撃して聞いてみた。「今後、どんなアニメとコラボしたいのか」と――。
「当事者の弱音を笑いとともに描きたかった」
終始にこやかに話してくれた、ラレコさん。キャラクターたちとともに
――そもそも、ネットでアニメを作りはじめたいきさつは?
ラレコ 実は、ある日突然、部屋にパソコンが持ち込まれたんです(笑)。というのは、漫画家になりたくて漫画家のアシスタントをやっていた時期があります。その仕事をやめて、ぶらぶらしていたある日。知人がいきなりパソコンを持ってきた(笑)。
もちろんネットなんてやったことなかったし、ネガティブなイメージもあって正直なところ、好きではなかったんです。でも、彼がどうしても「使え」というもので……。当時4畳半の部屋に住んでいて、こんなに狭いところに、迷惑だなと思ったんですが、これが、寝食を忘れるくらいハマっちゃって(笑)。それで、絵を描きはじめたんです。
――「やわらか戦車」を生み出したきっかけは?
ラレコ 映画『プライベートライアン』を見たのがきっかけです。劇中、無茶な上陸作戦を開始して、人間がマシンガンで穴だらけになってしまう凄惨なシーンがあるんです。そのとき、こう思ったんです。『戦争って怖いな、どんなに体を鍛えていたって、穴があいてしまうんだ』と。「人間」の本来的な柔らかさに気づいた瞬間でした。
そんなことがあって、ある日、「やわらか戦車」という言葉をぽっと思いついた。そして、すぐ絵にしてみたのが、まんじゅうのようなものにキャタピラつけた、このキャラクターなんです。
――「やわらか戦車」は戦場からすぐに逃げてしまうし、家族に思いを馳せている。何かメッセージのようなものが込められているのか?
ラレコ メッセージとして、反戦を訴えているのではないか、ということをよく言われるんですが、僕としては直接的に反戦をテーマにしているつもりはありません。むしろ、反戦のお題目をいくら唱えてみても、戦争は自分のすぐ隣にあるもの、なくなりそうにないもの、という感覚があります。
もちろん戦争なんて嫌ですよ。ただ、もし自分が戦場で生きることになったら、反戦という公的な理想を叫ぶのではなく、家に帰りたいとか、あったかい布団で寝たいとかいった個人的な願いのほうが切実な気がします。そんな当事者の弱音のような部分を笑いとともに描きたかった。
実際、僕らも現実という「戦場」で、弱音を吐きながらもなんとか生き抜いていかなくてはならないわけですね。そんな生活者としてのリアリズムを重ねながら作品を作れたら、という思いもありました。ですから、戦場という暴力的な題材からあえてピースフルに描き出すことで、頑張ることに疲れた人達をちょっとでも癒すことができたら、嬉しいですね。
「僕はガンダム世代なので……」
発売中のDVD「やわらか戦車~YAWARAKA TANK2~」。「やわらかアトム」も収録
――「やわらか戦車」と「鉄腕アトム」とのコラボはユニークだった。コラボすることになった経緯は?
ラレコ 手塚プロから打診があったんです。いや、打診というよりも「やわらか戦車」をつくっているファンワークスの高山社長が、手塚プロの方と交わした世間話がはじまりです。当時、手塚プロのほうでも、キャラクター資産を開放して、二次創作物を推奨し始めたところで、一緒にやることになったんですよ。
――でも、アトムなのに弱いですよね?
ラレコ コラボでは、「強い」やわらか戦車を作るか、「弱い」アトムを作るかどちらかを描く選択肢があったけれど、やっぱり後者になった。結果的に名作に泥をぬってしまう形になってしまいましたけど(笑)。
――今後、コラボしてみたいアニメは?
ラレコ 僕はガンダム世代なので、もちろんガンダムです! あとは、サザエさんも好きなので、「やわらかサザエさん」はどうでしょうか。ただ、サザエさんの家には猫のタマがいるから、一家全員、どっかさらわれちゃって、おしまい――みたいな(笑)。
(編注:「やわらか戦車」は、アニメの中で戦場からネコにくわえられ、どこかに連れ去られてしまうシーンが多い)
――話題になっている、「せんとくん」はどうか?
ラレコ 個人的には好きです(笑)。以前、やわらか戦車に鹿の角を生やしたバージョンをブログ上で発表したことがあるんです。今思えば、あれはせんとくんっぽかったですね。いや正直、角を書き足しているときは、せんとくんを意識しまくりでした(笑)。角はなかなか似合っていたので、もし正式にお話をいただけたら、面白いかもしれないですね。
――最後に、今後の「やわらか戦車」の展開は?
ラレコ 「やわらか戦車」は2005年に発表してから、3か月で50社のオファーがあり、一気にキャラクタービジネスになってしまったんです。もともとは単なるショートムービーを作りたかっただけなのに、作品の展望もないまま一気にキャラクタービジネスに化けてしまった……。ですから、作品と向き合う時間が足りなくなってしまった反省があります。
いまは、作品としての「やわらか戦車」に立ち返りたい、という気持ちが強いですね。連綿と連なっていくような物語をつくりたい。うた+アニメのPV的なものからはじまった「やわらか戦車」ですが、さらにストーリー的な部分に踏み込んで、より作品世界に没頭していきたいと思っています。