「自席のないオフィス」という試み イデアインターナショナルと形見一郎

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   イデアインターナショナルは面白い会社だと思う。物作りを特定の分野で決めつけない人々が上層部にいて、誰はこれをする、と分けるのではなく、総合して物事を考える、ということをきっとしているのではないかと思う。この夏に空間プロデュースを事業のひとつとすると宣言し、その答え、もしくはショールームとして自社オフィスを作り替えた。東京都港区芝にあるオフィスがその場所だ。設計を担当したのが形見一郎さんだと聞いて、それならばきっと面白い仕掛けがたくさんあるに違いないと思った。

自由かつ個性的な作業空間

さまざまなサイズの机が配置されるオフィスさまざまなサイズの机が配置されるオフィス
レストランのような打ち合わせスペース レストランのような打ち合わせスペース

   別フロアでの案内を受けて、肝心の7階に着く。右手には会議室、左手にはガラス張りの向こうに展示空間があり、キッチンがある。オフィスはその向こうに大きく広がっている。右手にはまるでレストランのような打ち合わせスペース。展示空間にはイデアインターナショナルの新しい商品が並んでいる。オリジナルブランド「TAKUMI(タクミ)」や「YUEN'TO(ユエント)」。今、インテリア雑貨の店に行けば必ず会える商品が並んでおり、それらがとても気になる商品群に育っている。ここで1段上がって、キッチンを終えるところでまた1段下がる。キッチンの背景はガラスの壁。ガラス一面を水が伝わっている。実は仕事の風景は外部からあまり見えないように工夫されている。

   オフィスは様々なサイズの机で構成されている。数人で囲むと丁度いい机、1人で没頭できそうな場所、2人で作業しやすい机、とりあえず大きな面積が必要な時の作業スペース。その日、その時に必要な場所を自分で確保すればいい。個人のスペースとして本当に存在しているのはロッカーのみ。無線LANなのでどこにいてもPCは使える。電話こそ線でつながっているが、十分な数の、しかも目立たない電源設備のため、オフィスはとてもスマートだ。これなら確かに今日の自分の場所で作業ができるに違いない。

「ここにいると楽しい」

形見一郎さん
形見一郎さん

   デザインを担当した形見一郎さんは、ここ数年カフェ、レストラン、ショップなど、都会でオシャレな商空間をどんどん提案してきたデザイナーだ。常に新しい提案をしようとしているし、時には不便さもその味とできることを知っている。仕事の範囲を固執することなく、プロダクトデザインから建築まで手がけている。

   このオフィスを作るにあたって、自席なし、個人スペースはロッカーのみ、というのはイデアインターナショナルからの提案だったそうだ。いろんな仕事をしている人間が、自分の仕事はこれだけと決めてかかるのではなく、イデアインターナショナルのひとりとして様々な仕事に広く関わってくれることが希望だったのだそうだ。形見さんを指名したのはこの時点で正しかったことがわかる。その上、形見さんはイデアインターナショナルの店舗を手がけた実績もあった。

   私も仕事の中で形見さんには面識がある。形見さんに伺ってみた。「せっかく自分の席がなく、自分のその日の場所を探す、なんて試みをするんだったら、人と人の導線がぶつかる空間を作ろうと思ったんです。滑らかに誰かの隣を通り過ぎて行くようなことは絶対できないようにしようと。通路の幅はどんどん変わりますし、直線で進める場所なんて入り口くらいです。その入り口部分は水まわりを集中させているので、水を通すスペースが必要です。だからわざわざ1段上がって、1段下がる。いちいち動きが変化するんです」

   工夫はもっともっとあるのだけれど、このくらいにしておこう。何よりもその場にいて思ったのは、ここにいると楽しい、ということだった。僕もオフィスの引っ越しを考えているのだけれど、ここまで楽しめるものかどうか。




◆坂井 直樹 プロフィル

坂井直樹氏
ウォーターデザインスコープ代表/コンセプター。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授。1947年京都市出身。京都市芸術大学デザイン科入学後、渡米。サンフランシスコでTattoo Companyを設立。ヒッピー達とTattooT-shirtを売り、大当たりする。帰国後、ウォータースタジオを設立し、日産「Be-1」「PAO」のヒット商品を世に送りだし、フューチャーレトロブームを創出した。2004年デザイン会社、ウォーターデザインスコープ社を設立し、ケイタイを初めとした数々のプロダクトを手がける。現在auの外部デザイン・ディレクター。07年9月、新メディアサイト「emo-TV」を立ち上げる。同年12月には、日常の出来事をきっかけにデザインの思想やビジネスコンセプトを書きつづった「デザインの深読み」(トランスワールドジャパン刊)を著した。

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