デザインを磨き上げる姿勢 ~ロス・ミクブライドの生み出す腕時計~

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   10月30日から開かれる「100% design tokyo」で僕の友人のデザイナー、ロス・ミクブライドが腕時計を発表、発売するというので、その腕時計を見せてもらった。パッと見た瞬間、ロス、これ前に出したのより大きいだけじゃないの、と口に出しそうになった。しかしよくよく見ると細部がほとんど違うのだ。職人が手直しをするようにロスはデザインを磨き上げた。

「ブラッシュアップ」は物づくりの原点

ロス・ミクブライドは本物の職人だ
ロス・ミクブライド本物の職人だ

   自戒をこめて言うのだけれど、このところすぐに次のデザイン、その次のデザインと前へ進むことばかりを考えて、磨き上げる作業も時間もないデザイン作業が増えているのではないだろうか。同じモチーフを再び使うと、それはもう見た、と言われてしまう。よいところを汲み取り、ブラッシュアップして新しいものを生み出す可能性は極めて高いし、工芸品はそうして今日の形を手に入れたものだ。ついつい忘れてしまう物作りの原点だ。

   「ノーマルタイムピーシーズ」はロスが2年前に立ち上げた時計のブランドだ。その代表と言えるデザインアイデアが、文字盤全体をふさぐ円盤に短針に当たる部分の長方形の窓を開け、この円盤が回転することで時間を表示するというもの。トリッキーでありながら、シンプルで美しい。同じアイデアで壁掛け時計も彼は作っている。

こだわり抜いて生まれた新作「グランデ」

エクストラノーマル グランデ」のメッシュシリーズエクストラノーマル グランデ」のメッシュシリーズ
「オリジナル」(左)と「グランデ」(右)の円盤に注目 「オリジナル」(左)と「グランデ」(右)の円盤に注目

   新作「エクストラノーマル グランデ」を作るにあたり、ロスは自分で工場探しから始めたと言う。前作の「エクストラノーマル オリジナル」では円盤の端が見えてしまっている。この円盤の大きさは工場と何度も話し合い、できる限り大きく、円盤の存在が見えないようにしてほしいという要望をし続けてようやく達成したところだったそうだ。この円盤の存在をまったく見えない状態にしたかったのに、2年前はそれが達成できなかった。これを可能にする工場を探し出し、交渉した。さらに時計を包む風防ガラスにわずかなふくらみを持たせた。見やすさだけでなく、平面では感じられない味わいがある。裏蓋は側面に滑らかにつながる曲面に仕上げた。ヘアライン加工も納得のいくラインを作ることができた。ロスに言われるまで見えないような様々なデザインの磨き上げがそこにあった。

   新しいデザインを追いかけるだけでなく、自分の生み出したモチーフを磨き上げ、変奏していくというのは重要な作業でありつつ、軽んじられていることなのかもしれない。

   ロスに次はどんな腕時計を考えているの、と訊ねてみたら、次は全然違うデジタル表示かな、と答えてくれた。アメリカ生まれでなぜか日本に住み着いたデザイナーの物作りからしばらく目が離せない。

坂井直樹




◆坂井 直樹 プロフィル

坂井直樹氏
ウォーターデザインスコープ代表/コンセプター。慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授。1947年京都市出身。京都市芸術大学デザイン科入学後、渡米。サンフランシスコでTattoo Companyを設立。ヒッピー達とTattooT-shirtを売り、大当たりする。帰国後、ウォータースタジオを設立し、日産「Be-1」「PAO」のヒット商品を世に送りだし、フューチャーレトロブームを創出した。2004年デザイン会社、ウォーターデザインスコープ社を設立し、ケイタイを初めとした数々のプロダクトを手がける。現在auの外部デザイン・ディレクター。07年9月、新メディアサイト「emo-TV」を立ち上げる。同年12月には、日常の出来事をきっかけにデザインの思想やビジネスコンセプトを書きつづった「デザインの深読み」(トランスワールドジャパン刊)を著した。

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