「ネットの即時性が魅力」
元『LEON』編集長・岸田一郎氏に聞く

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   ファッション誌『LEON』『NIKITA』の編集長として知られる岸田一郎さんが2008年9月16日、web上に新たなメディアを立ち上げた。富裕層をターゲットとした『KISHIDA DAYS』は、自身が見立てた商品情報を日刊で提供するという試みだ。ただ、岸田さんはWebを取り入れた雑誌『zino』で休刊の憂き目をみている。それなのになぜ、またwebを選んだのか――。

『zino』というより、『@zino』(webマガジン)の経験は大きかった

『KISHIDA DAYS』を立ち上げた岸田一郎さん
KISHIDA DAYS』を立ち上げた岸田一郎さん

――新しくオープンしたコンテンツ『KISHIDA DAYS』。今回もまた、富裕層がターゲットですね。その理由とは?

岸田 ひとつは、僕自身がオールマイティーな編集者じゃないから。もともと出身は世界文化社で、富裕な若者向けの雑誌『Begin』なんかを作っていたわけです。ですから、ファッションのみならず機械式時計や自動車といった、ライフスタイル誌は、まあごく客観的にみると、僕の“かたよった”得意分野じゃないでしょうか。

――そして、ラグジュアリー商品(=贅沢品、高級品)に“ニーズ”があるからでしょうか?

岸田 もうひとつの理由なんですが、いつの時代も富裕層がいるから、ということでしょう。

   たとえば、『MEN’S EX(メンズエクストラ)』が創刊したころ(=1993年)は、ちょうどアオキのスーツが台頭してきたころでした。スーツが2~3万円で買えるようになった時期だったんです。そんなときに、社内では『岸田の提案している40~50万円のスーツを買うやつがどこにいるんだ』って言われましてね。
   ところが、不況だからって、ベンツが売れない、エルメスが売れない、というわけではないんですよ。必ずいつの時代も富裕層がいる。そういった層をターゲットにしたコンテンツが必要で、その『指南役』になれれば、と考えています。

――とはいえ、すでに雑誌とwebとで展開した『zino』『@zino』(=06年11月に創刊、08年4月に休刊)では、苦戦を強いられましたね

岸田 『@zino』では大きな経験を積んだな、と思っています。

   実際のところ、まだ『紙(=雑誌)』という伝達手段は大勢をしめていると思っています。雑誌とネットを一緒にやってみてわかりましたが、広告料金一つとっても、どうしても紙の方が(料金が)高いわけです。
   そこで、です。ここに『とっておきの情報』があるとします――これは読者をわくわくさせる、とっても面白い情報のことです。この情報を(ネットか雑誌か)どちらかで発信するかとなった時には、どうしても雑誌に掲載することになる。雑誌を作っている以上、書店で本を買ってもらわないといけないのでね。
   そんな理由で、『とっておきの情報』はどうしても雑誌に託すわけです。となると、どうしてもネットは『おまけ』にしかならなかったんですよ。が、今後は『とっておきの情報』すべてをネットで配信していきます。

――今回はネットだけに専念するということでしょうか。この場合、どんなメリットが考えられますか?

岸田 僕は紙(=雑誌)が長かったこともあって、今日手に入れたトピックス(情報)は、最短で1か月半、2か月先の紙面を頭に描きながら、この情報をどうするか考えていました。ところが、ネットだと、今日入った情報は今夜公開してもかまわない。この即時性は魅力ですね。

――サイト内では動画も多用されています。「葉巻講座」「ストールの巻き方」などがありました。動画にも魅力を感じているのではないでしょうか?

岸田 今後、動画はどんどん多用していきたい。雑誌もネットもそうなのだけれど、ラグジュアリー商品の購買者に対して、いかにわくわくさせるコンテンツを提供できるか。それがメディアの役割だと僕は考えています。有効な伝達手段としてネットも使える――そういう時代になってきましたね。

――では、もう雑誌はやらないと?

岸田 いや、もちろん、雑誌を否定しているわけではないですよ。雑誌の見開きにある綺麗な写真は、印刷のクオリティの高い雑誌にしかできないこと。ひょっとしたら、この先、『KISHIDA DAYS』の集大成のようなものを……なんてことになるかもしれないですね。

【岸田一郎プロフィール】
1951年、大阪府出身。『Begin』『CarEX』『Men’sEx』『時計Begin』などの創刊編集長を経て、2001年9月、“ちょい不良(ワル)オヤジ”で一世を風靡した『LEON』を創刊、ヒット作に育てた。2004年には女性誌『NIKITA』を創刊。“ちょいモテ、オヤジ”は2005年流行語大賞を受賞。2006年、雑誌とwebを融合した複合メディア『ZINO』『@ZINO』を創刊。2008年9月、『KISHIDA DAYS』を立ち上げた。

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