黒沢清監督の新作映画「トウキョウソナタ」が2008年9月27日に公開された。東京の恵比寿ガーデンシネマでは、公開にあわせて舞台挨拶が行われ、黒沢監督のほか、主演の香川照之さんや小泉今日子さんらが出席した。
海外でも反響よんだ「現代日本の家族」
夫婦役を演じた香川照之さん、小泉今日子さん
映画「トウキョウソナタ」は、現代日本の家族を描いた、黒沢清監督の意欲作だ。リストラされた父(香川照之)、ドーナッツを作っても食べてもらえない母(小泉今日子)、アメリカ軍へ入隊する兄(小柳友)、こっそりピアノを習う弟(井之脇海)を軸に、いつのまにか深まってしまう家族の溝を丹念に描く。
この作品は、「2008年カンヌ国際映画祭『ある視点』部門」で審査員賞を受賞。また、海外の映画祭にも出品されている。黒沢監督に海外での反響はどうか、と質問したところ、次のように回答した。
「面白いほど同じような反響です。東京の現代のごくふつうの家族を描いたつもりでしたが、海外のどこへいっても『うちの国と一緒だ』というんです。うれしいことです。映画というものの力でしょう。俳優、映像といった総合的な力がローカルな内容をも世界中の話題にしてしまう――自分でも驚いています」
「自分の中で最も大切な映画」
そんな中、主演の香川照之さんは10年ぶりの黒沢作品の参加となる。舞台挨拶では、うれしさをにじませながら、「自分の中で最も大切な映画です。自信を持って言えます」とアピール。また、恵比寿ガーデンシネマでの封切りになったことについて、「恵比寿ガーデンシネマは俳優として敷居の高い、格調高い場所――僕の中では岩波ホールと恵比寿ガーデンシネマに来ると、『おっ、ちょっといい俳優』と思うんです」と話し、笑いを誘った。
一方、「いい仕事ができた」と胸を張る母親役の小泉今日子さんは、香川さんの魅力について問われると、
「カメラが回っているときも、いないときも引っ張ってくれる『強さ』を感じました。というのも、息子役の二人に『香川さんについていこう』という(気迫のような)気持ちが見て取れる瞬間があったんです。役を超えて、母親としての気持ちで見守っている感じになっていました」
とべた褒めだった。
ところが、弟役の井之脇海くんは香川さんの演技に圧倒される部分もあったようだ。香川さんの印象が問われると、慎重に言葉を選びながら、こんな風に打ち明けた。
「香川さんにたたかれるシーンがあるんです。そのシーンを撮る時に、香川さんは(事前に)何も言ってくれなかったんですよ。本気でたたかれて、そこまで(強く)くるとは思わなかったので、思わず苦笑いしてしまった」
一方の香川さんは、
「実生活でうちの子を怒ることもあるんですが、よく笑ってますよ。なるほど、そういう気持ちだったんだと、いま、よくわかりました」
と妙に納得しているようだった。
映画「トウキョウソナタ」は恵比寿ガーデンシネマ、シネカノン有楽町ほか全国の映画館でロードショー。