インターネット検索のGoogle(グーグル)といえば、一般的には革新的な新興企業というイメージだろう。しかし、IT業界の先端を行く人のなかには、すでに古い既成勢力だという見方もあるようだ。グーグルはネット界の「マイクロソフト」ではないか――。豊富な資金力を持つ巨大企業であり、あるジャンルで独占的な立場を築いた上で、その他の何にでも手を突っ込みたがるというわけだ。
たとえ拡大路線にあっても、革新的な要素は変わりないと筆者は見ているのだが、さて、そんな米グーグルに2008年7月8日、また新たなサービス「Lively」が加わったという。
グーグル版「セカンドライフ」という触れ込みだが…
Livelyのアバターは全般的にカジュアルで、違和感は少ない
Livelyは3D仮想空間、仮想世界などと呼ばれるサービスだ。ユーザーのアバター(分身)がバーチャルな3D空間に暮らして、他のユーザーとコミュニケーションする、オルタナティブな世界。代表的なものにSecond Life(セカンドライフ)があるが、今回の報道でも、Livelyはセカンドライフへの対抗だとか、グーグル版セカンドライフといった触れ込みである。
一口に「仮想空間」と言っても様々あるが、セカンドライフは、とりわけスケールが大きい、意欲的な実験空間になっている。そこでは専用の仮想通貨が流通し、自分の土地を持ち、家を建てたり、カネ儲けの仕事に精を出し、余暇に娯楽を楽しんだり、買い物、結婚――実生活でできることはほぼ可能だし、実生活だからできないことも可能だ。
ところで、独創性があり、情報を網羅的に統合する、大規模なサービスをやっているという点では、グーグルも、ある種「セカンドライフ」的だと言えるのではないだろうか。2007年にはネット界隈で大きな話題となったセカンドライフ、仮想空間全般も、その後は停滞気味。それだけに筆者としても、グーグルと仮想空間の豪華な初顔合わせに期待したのたが……。
グーグルらしくないミニチュアの仮想ワールド
各ユーザーの「部屋」はサイト上で検索する
Livelyはブラウザー上に展開する、かなり簡素化された空間だった。実際、そのシンプルさに戸惑うほどだ。仮想空間は各ユーザーが開設する「Room」単位。各「部屋」は独立していて、グラフィック上のつながりはない。部屋を探すのは、昔ながらのやり方――ウェブサイト上で、YouTube(ユーチューブ)のビデオを探すように検索する。
現状では、一般ユーザーはその部屋のなかに、用意されたカタログから選んだ、イージーオーダーの建物や家具を置くだけである。また各部屋のマップが狭く、10歩も歩けば壁に当たるという点も気になった。奥行きのある構造、建造物などは見られず、なんだか仮想世界のミニチュアのようだ。
現在はBETA(テスト)版であり、今後改善される点はあるのだろう。公式サイトによれば、将来的には、ユーザーがコンテンツを制作でき、細かなカスタマイズも可能になるという。現在使用できない日本語にも対応するだろう。
ただ、現時点では、革新的なグーグルブランドのサービスとしては完全に拍子抜け。同社の主要ジャンルのサービス・ラインナップのなかでも、オリジナリティに欠け、こじんまりとして特長に乏しい、最弱の部類と思える。
これは大企業病の兆候なのだろうか
このセカンドライフ対抗空間は、2007年の9月にはすでに開発が噂されていたものだという。あれほどの企業が長期間、開発して、こんな代物を出してくるとは――。どこかの大企業の製品にはよく抱く感想だが、グーグルでは珍しいことだ。
もちろん、このLivelyだけで決めつけるわけにはいかないが、「大企業病」という言葉がふと頭をよぎった。
虎古田・純