「ATOK」月額300円制で日本語入力は向上するか?

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   2008年6月18日、ジャストシステムは主力製品の日本語入力システム「ATOK(エイトック)」の定額制サービスをはじめると発表した。

   月額制の「ATOK for Windows 月額版」(300円)と年額制の「ATOK for Windows スターターパック 1Year版」(3200円)の2種類があり、どちらも週に一回程度、インターネット経由で認証を行う仕組みだという。提供開始は9月2日の予定だ。

MSが日本語入力に「本気」とは思えない

ATOKの辞書セット付き「プレミアム」は実売8000円~
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   さて、このニュースに触れる前に、「日本語入力」の現状を振り返ってみよう。筆者が思うに、(Windows)パソコンの日本語入力というのは、かなりひどい苦痛を伴う作業である。主流のローマ字入力は非効率だし、かな入力も負けじとやりづらい。日本語入力のON/OFFはアプリケーションによって勝手に切り替わり、日本語を打ったつもりが画面には無情にもアルファベットが表示される。そのON/OFFの切り替えをするにも、キーボードのホームポジションから遠く離れた「半角/全角」キーを使わなければいけない。

   これらはカスタマイズによってある程度解消できるが、WindowsやMicrosoft Officeに付属する日本語入力システム(MS-IME)がストレスに追い打ちをかける。珍妙な誤変換(語彙の少なさ)、文節への無理解、遅々とした成長ぶり――はまるでユーザーの忍耐力を試しているかのようだ。

   マイクロソフトによると、日本語MS-IMEは数年ごとに大山鳴動しながら発売されるOSやOfficeと合わせて改善されているはずだ。しかし、毎度毎度、実際に使ってみると、シアトルの巨大グローバル企業がニッチな日本語入力にどこまで本気で取り組んでいるのか――と訝しくなる出来栄えである。必要最低限のサービスを提供しておけば良いといった割り切りが透けて見えるようだ。

ATOKは痒いところに手が届く「和風旅館」だ

入力しながら言葉の意味も調べられるのは一石二鳥だ
入力しながら言葉の意味も調べられるのは一石二鳥だ

   これに対して、国産のATOKはもちろん日本語に特化した製品だ。かつてはジャストシステムの老舗ワープロソフト「一太郎」付属の日本語入力システムだった。一太郎のほうはすっかりマイクロソフトのWordに飲み込まれたが、ATOKは単体で販売され、MS-IMEに代わる日本語入力システムとして一定の地位を保っている。

   ATOKは変換精度の高さがよく喧伝されるが、組み合わせて使える辞書・辞典が豊富で、連携がスムーズな点も特筆に値する。一例をあげると、文章の入力途中で、単語の変換候補ウィンドウの隣にATOK専用の明鏡、広辞苑、ジーニアス英和・和英といった辞書を表示できるのが便利だ。ある単語が複数の辞書に載っていた場合は、キー操作で辞書を切り替えて表示できる。文章を書きながら、同時に辞書で意味を確認。これは一石二鳥である。

   MS-IMEが地方の駅前にある安いビジネスホテルとすれば、ATOKには痒いところに手が届く和風旅館の趣がある。ときにお節介なサービス過剰で、利用者が鬱陶しさを覚えるというところも似ているのだ。

定額制「独自」のサービスに期待する

   さて、そんなATOKが「定額制」に踏み切った狙いはなんだろうか。Webベースの動画視聴や地図サービス、セキュリティソフトといった分野では月額制・年額制がある程度浸透しているが、日本語入力システムのような古典的ソフトでは珍しいケースだ。ジャストシステムでは他製品への定額制適用も検討しているという。

   メーカーの説明では「初期導入コストを下げて、気軽に使い始めてもらえるようにした」とのこと。たしかに、愛想は悪いとはいえ無料で泊まれるMSホテルがあるのに、わざわざ余計なお金を出して別の旅館に泊まろうという人は多くない。

   意地の悪い見方をすれば、そのままでは売りづらいから、細かく切り売りしはじめたのだと言えるかもしれない。月額制では月300円と安いが、2~3年経つと、ソフトを通常購入して使い続けるよりも割高になってくる。一方で、この定額制をビジネス紙(誌)的に見れば、古典的ソフトにネット時代の感覚を導入した改革的な動きと取れなくもない。

   ユーザーがどちらの印象を持つかは、今後提供されるという定額制独自のサービスの充実度によっても、大きく違ってくるだろう。ソフト購入の選択肢が増えることは歓迎だが、「初期導入コスト」の話だけで終わるのではつまらない。新たな料金体系のもとに新たなサービスを育てて、ストレスフルな日本語入力をもっと向上させてほしいものだ。

虎古田・純

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