緒方慎一郎さんが食器を開発するとこうなるのか、と納得のカタチだ。WASARAというシリーズの使い捨ての紙の器。発売は2008年8月の予定だが、展示会が開かれ、お披露目パーティーでは実際にその器を使うことができた。手にしっくりと馴染んで気持ちいい。
「昔から日本人は器を持って食べてきたんですよ」という緒方さんの当たり前と言えば当たり前の言葉がしっかり響く。
今の日本人に響く要素が詰め込まれている
使い捨ての皿とは思えない造形の「WASARA」
「WASARA」には和食が似合いそうだ
パーティーでの取り皿というのは持ちにくい。やはりあの洋皿や紙皿は持って食べるカタチではないのだ。丈夫な紙の縁をクイッとねじっただけで、そこが心地いい手がかりになる。
一瞬、これは左利きの人にはどうなのだろう、と思ったが、これが大丈夫なのだ。持ち方は変わるが左手で持ってもしっかり馴染む。どこか柳宗理によるバタフライ・スツールを思わせるところがある。触れることを眼目にしているということだろう。
緒方さんはもともとインテリア・デザイナーだ。今は中目黒に「HIGASHI-YAMA Tokyo」というレストランを持ち、目黒川沿いに和菓子カフェ「HIGASHIYA」、西麻布に和菓子などを販売する「ori HIGASHIYA」を持つ。さらに新しい店舗を展開している。もちろん内装は自分で手がけている。
僕の年若い友人であり、相談相手だ。もっぱら相談するのは僕の方。「和」がテーマのデザインの依頼が来ると、彼に意見を求めることがよくある。そして的確な意見をいつも用意してくれる。
そんな緒方さんの提案である。風合いも、使った印象もいい。和食が似合う紙の器だ。しかし、この器はそれだけではない。今の日本人に響く要素がきっちり詰め込まれている。
文化の根源には必ず「食」がある
「WASARA」の素材は、さとうきびの搾りかすと葦
まず、「日本の美意識や価値観」を持ち込んだ提案である、ということ。これは様々な企業の商品開発の現場でテーマとして言われるのだが、なかなか現実の商品に落とし込めない。緒方さんはこのテーマをきちんと細分化し、どの要素をとっても根底に日本の美意識や価値観から選んだものにし、それを統合してカタチにしている。
そして、使い方だ。日本人は昔から器を手に持つ。だからWASARAは、和食器から発想し直した、使い捨てのカタチだ。個性的だと感じるのは僕たちがこの器をパーティー会場で見る紙皿と比べてしまうからだ。和食器の並ぶ棚にこの器があっても違和感はまったくない。
素材はさとうきびの搾りかすと葦。木材ではなく、朽ちるだけの素材だ。資源の有効活用というだけでなく、土に還る素材でもある。ただの使い捨てではない。まさにエコだ。パーティー会場でのお決まりの紙皿とこのWASARAではまったく印象が違うのも明らかだ。この器にはもてなしの心が表れている。使い捨ての紙容器がもてなしの心を伝える器となる。
インテリアから始まり、食を手がけるようになったのは、文化の根源には必ず「食」があるからだ、と緒方さんはよく言う。そして食を提供する場、食そのもの、さらに包装の工夫と広がってきて、今回のWASARAだ。いろんなことを手がけているようで、その奥にひとつの芯がきちんと通っている。
坂井直樹