新世代DVD戦争がBlu-ray Disc(ブルーレイディスク)の勝利で終結してから約3ヶ月。HD DVD陣営を率いた敗軍の将、東芝が兵を進めた。新世代規格争いに敗れ、先行き暗くなったレコーダー事業からの撤退も噂された同社が2008年5月15日、HDD&“DVD”レコーダー「VARDIA」の新機種を発表したのだ。
多機能を盛り込むレコーダーには高い評価も
画質・高音質回路を搭載した旗艦モデル「RD-X7」
新世代争いでは一敗地にまみれた東芝だが、レコーダーそのものは高く評価するユーザーも多く、その行方が注目されていた。プレイリストを駆使した細かな編集機能や、LANを使ったパソコン上での操作、メールで番組予約など、パソコンやネットとの連携を生かした「多機能性」が東芝レコーダーの特徴として挙げられる。
一方で、多機能ゆえのわかりにくさ、機能個々の完成度の低さに由来する使いづらさもよく指摘されるところだが、今回の新機種でもDVD(-VR)をネット経由でダウンロードし、DVD-RWに保存できるサービス「DVD Burning」を追加してきた。多機能へのこだわりぶりは健在なようだ
ITmediaの記事によれば、東芝の担当事業部長は発表の席で「HD DVDがなくても、VARDIAは確固たる信念を持って進めていく」と語っている。旧型DVD機のVARDIAで当分は生き長らえるという計算があるのだろうか。
たしかにDVD規格争い終結時には「これでユーザーの買い控えも終わり、ブルーレイ機がレコーダー市場を牽引して大いに盛り上がる」というバラ色の未来が語られたが、実際にはその後レコーダーの売れ行きが大きく伸びたという話も聞かない。
とはいえ、レコーダー市場のなかではブルーレイ搭載機がシェアを伸ばしているのは事実だ。中長期的にどうなるのかという疑問は残ったままである。
"X"で「お家再興説」が根強くあるが…
「RD-S502」は新機能「DVD Burning」を利用可能。「RD-X7」は不可
東芝は公式には「ブルーレイ搭載機はつくらない」との方針を通している。そこで根強くあるのがブルーレイ以外の新たなメディアを搭載したHDD&“X”レコーダーでお家再興を図るのではないか――という説。
筆者の持論は「先のことはわからない」だが、それにしても、この数年内に「対ブルーレイ」の“X”が登場するというのは、ほとんど非現実的に思える。東芝が画期的な新技術を自社製レコーダーの記憶媒体に採用することは技術的には問題なくできるだろう。
しかし、それが東芝でしか使えないのでは勝手が悪いし、流通も限られる。市販の映画ソフトへの採用なども難しいだろう。現在、すでに近所のCDショップでブルーレイの映画ソフトが買え、レンタル店での貸し出しも始まっている。東芝の新メディアが自機でのテレビ放送の録画・保存オンリーならば、消費者がどちらを選ぶかは明らかだ。
いまからHD DVDに費やしたのと同じ時間と費用をもって、いちから“X"の進化と多数派工作に取り組んでも、その間にブルーレイの普及が(遅々としてかもしれないが)進むのである。そもそもハリウッドの映画会社も今更“X”に乗ってこないだろう。新世代DVD対決が関ヶ原の戦いなら、これの勝ち目は大坂の陣ほどに薄い。
ブルーレイ採用は本当にないのか
そして残る疑問。ブルーレイ採用は本当にないのか――。おそらくは、レコーダー市場とそのなかでの東芝レコーダーの可能性を睨みながらの経営判断になってくるのではないだろうか。筆者としては、ただでさえ寡占化が進みつつあるHDD&DVDレコーダーの発展のために、東芝にはブルーレイを採用してもらいたいと思う。それこそ、HD撤退を決断したのと同じような変わり身の早さを、いまこそ見せてほしいものだ。
虎古田・純