ユナイテッドアローズを率いる重松理さんもよく知っているし、京都の帯屋、誉田屋(こんだや)の山口源兵衛さんもよく知っている。しかし、この2人がこんな企みを進めていたとは知らなかった。手を組んで和装を作っていたのだ。
かつてこんな服を着た男がいたのだ
コラム筆者も「和装」のモデルになった
源兵衛さんのお誘いで、僕も和装のモデルの1人になった。ショーのタイトルは「傾奇者達之系譜(かぶきものたちのけいふ)」。奢侈禁止令が発布される以前、桃山から江戸の初め、懐にとても余裕のある男たちが着飾ることを楽しんでいた時代の衣装を再現したものだという。
この写真はそのショーでの僕だけれど、こんなのが街を歩いていたら、ちょっと避ける。これが自分なのかな、と驚いている始末。服装にはそれだけの力があるし、和装にその力があることがこうしてはっきりとわかる。全身ジャン=ポール・ゴルチエでそろえても、銀座ですれ違った時、この和装ほどの力はないだろう。
ちなみにこの着物は泥染めとろうけつ染めで作られたもので、渋好みで貫かれている。派手というのではないのだ。かつてこんな服を着た男が実際にいたのだ。渋好みがこれほどに強い。実に大胆不敵。
このファッションショーはユナイテッドアローズによるもので、今後、和装に積極的に取り組んでいくという意思表示だ。ファッションショーからそう間を置かず、ショーのコレクションの一部を先週末、原宿の店で展示即売した。
ショーで見せるだけではなく、実際に販売する。まさに和装への姿勢を見せたと言える。展示の様子を見ても、いわゆる和装というイメージではない。フローリングにソファやバイク。現代の男たちへ、という提案になっている。
「1着90万円」の着物でも高くない!
手作業で丹念に作られた着物は見るだけも価値がある
値段でものを言うのはわかりやすいので紹介すると、今回のコレクションで使われた着物で販売されるのは20万円から90万円。帯で6万円から50万円。高い、と感じる人もいるだろうが、実際に京都の呉服屋さんや帯屋さんで買い物をしたことのある人は、この数字は高くないと感じてくれるだろう。
手作業で作られた一点物の布地をさらに手作業で縫い上げる。しかも300年以上も前の色や柄を甦らせている。妥当な値段ではないだろうか。オートクチュールを手にしているのだから。
実際、京都でこういう買い物をする時に工房を見たいと言えば、きちんと手配してくれる。隠すところなどない。手作業こそ最高の贅沢品の作られる場所なのだ。言葉で書いてしまえば当たり前になってしまうけれど。
誉田屋は創業270年という京都の帯問屋。老舗だが常に新たな挑戦を続けている。一方、ユナイテッドアローズは来年が20周年。洋服の世界では確固たる地位を得ている。多くの歴史のあるブランドが、「伝統と革新」をモットーに掲げていることが頭に浮かぶ。これを機に両者が和装に変革を与えてくれるだろう。じつに楽しみだ。
坂井直樹