ワインラベルは「ウォーホル的表現」に適していた
展覧会のテープカットをするフィリピーヌ・ドゥ・ロスシルド男爵夫人
僕が一番驚いたのは1975年、アンディ・ウォーホルの作品だ。前オーナーであるフィリップ・ドゥ・ロスシルド男爵のポートレートをコピーし、アニメーションのセル画に使われるのと同じ透明シートにデッサンのように描き移し、コピーとセルの間に破いた色紙を挟み込む。
ここにあるのはウォーホルの最終作品として僕たちがいつも目にしているシルクスクリーンではない。ニューヨークの彼の工房「ファクトリー」の内部で行われていた、検討中の作品の姿だ。セルを固定するのに使われた糊の変色が時代を実感させてくれる。片隅に仕上がったラベルが貼られ、「なるほど、こうまとめたのか」と納得する。
そして時代を感じる。70年代、工業製品の力が芸術の中に浸透してきた。ウォーホルはまさにその中心にいた。
興味深いのは「ワインラベルに芸術の複製を使う」というアイデアに、まさに「アートを複製にすること」を持ち込んだウォーホルの作品がちゃんとあるという点だ。ワインラベルというのはとてもウォーホル的な表現の場なのだと改めて納得。
かつて樽で販売していたワインをシャトーで瓶詰めしてラベルを貼る、という販売方法を開始したのが、他ならぬフィリップ男爵であったと言う。ラベルのデザインには当初からポスターデザイナーが起用されていた。ならばヴィンテージ・ワインには芸術を、と男爵本人は自然な発想で行き着いていたのかもしれない。
坂井直樹