最近は「サローネ」と言っただけで企業の商品開発担当者が反応するようになったのに驚く。雑誌からの知識にウェブからの知識が加わっているのだろう。
世界的な家具の見本市としてミラノで毎年春に開かれるサローネというのがあって、けっこうこれが重要なんですよ、デザインの潮流を知るには必ずチェックすることをお勧めします。ついこの間まではそう説明していたのに。
イタリアの見本市「サローネ」で評判を呼んだ
建築家がデザインした「ORIGAMI」
開かれているのは家具の見本市だけでなく、インテリア小物、照明機器、キッチン、オフィスなどインテリアに関わるすべての見本市が、時期を合わせて開かれている。日本からもデザイナーやインテリアメーカーだけでなく、電機メーカーの人の姿もよく見られるようになっている。今年も4月になるとサローネの話がデザインの世界を賑わすことだろう。
そのサローネで2007年に評判を呼んだ椅子が日本で手に入るようになった。イタリアの家具メーカーYCAMI(イカミ)から発表された「ORIGAMI(オリガミ)」だ。輸入元はトーヨーキッチン&リビング。以前はサローネの発表から商品となるまで3年ほどかかっていたのに、今はその年の内に売り出される。日本でも1年かからずに手に入るようになった。インテリアの世界も回転が速くなってきたものだ。
ORIGAMIという名前から一瞬、日本人デザイナーの作品かと思ったのだが、そうではなく、リッカルド・ブルメルという建築家がデザインしたものだ。建築家が考えたというところで、納得がいく。東京タワーと同じ、トラス構造だ。少ない材料で強固な構造体を作り上げる。もし東京タワーで椅子を作れと言われたら、こういう結果になるかもしれない。
「本当にここに座っていいの?」と思わせる愉快さ
東京タワーと同じトラス構造になっている
骨だけにした厚さ2ミリのアルミ板を折り曲げる(曲げることによって強度が増す)。こうしてできた18個のパーツをリベットで組み合わせる。結果としてできたトラス構造がさらに強度を生み出す。重さ2.9キロ。パソコンより軽い。
確かにこれは構造体の集合で、理屈によって作られている。しかし軽みを感じる。実際軽いのだが、それ以上に軽みがある。僕がすぐに思い出したのは倉俣史朗のHow High The Moonだ。こちらはアルミではなくスチールメッシュなので、実際の重さはそれなりにある。しかし見た印象の軽さはORIGAMIより上かもしれない。
そしてどちらも、本当にここに座っていいの?と思わせる愉快さがある。座ってみるとわかるのだが、どちらもその構造自体がクッションの効果を持っているので、心地いい。金属の堅さは感じない。これはちょっとした驚きだ。
アルミの特徴をうまく活かした「ORIGAMI」
アルミの椅子の代表と言えばemecoのNAVYシリーズを代表とする椅子が頭に浮かぶ。フランク・ゲイリーやフィリップ・スタルクといった、癖のあるデザイナーたちがemecoの椅子のデザインをしている。座面のくぼみが、人が座っている姿を想像させる。金属としての硬さや光沢が贅沢な印象を与える。
ORIGAMIはこれとは正反対な印象を与えるが、航空機に使われる構造体としてのアルミの特徴をうまく活かしている。飛行機の軽量化はアルミを使った合金であるジュラルミンなしにはできない。そしてもっとアルミと縁が深いのが飛行船だ。板を立体的に曲げることによって強度を上げる。軽くするために平面には穴を開ける。こうしてできたアルミのフレームはかつて飛行船の構造体として活躍した。
そしてこのアルミフレームは驚くほど鳥の骨の構造に似ている。軽くする努力の最先端が鳥だというのは納得がいく。アルミという素材にはまだまだこの先があるのだろう。この椅子はその扉のひとつかもしれない。
日本人の目から見て、これを「ORIGAMI」と名付けるのは若干抵抗があるが、折り紙を作った後に開いてみると、まさにこんな線に出会う。もしかしたらブルメルはそれを知っていたのかもしれない。
坂井直樹