ホリエモン事件の影響で一時の「ベンチャーブーム」は鳴りを潜めた感があるが、いまも自分の夢を実現するために起業したり、ベンチャー企業に就職したりする人は多い。そんなベンチャー企業で働く人々に向けてエールを送る本が出版された。ベンチャーキャピタリストの辻俊彦氏が書いた『愚直に積め!』だ。どんなメッセージが込められているのか。著者の辻氏に聞いた。
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「失敗の積み重ねが成功につながる」
――最近は『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』など長いタイトルの本が増えていますが、この本は『愚直に積め!』と非常にシンプルです。この短い言葉には、どんな意味が込められているのでしょうか?
辻 「ベンチャー企業が成長を遂げるには『愚直な挑戦の積み重ね』が必要である、という私の思いをそのままタイトルにしました。ベンチャーは大企業と違って、こうすればうまくいくという『成功法則』が確立していません。そういう環境のもとでは、失敗から学びながら果敢に実行を繰り返していくことが、なによりも重要です。失敗の積み重ねが成功につながる。それが『愚直に積め!』ということです」
――ベンチャー企業というと、Googleみたいに斬新なアイデアと卓越した技術力で勝負するというイメージがあるんですが、実際の現場はもっと泥臭いということでしょうか?
辻 「ベンチャーというのは、社会に新しい価値を創造するために戦っている企業ですが、新しい価値を生み出すのは『チャレンジの積み重ね』です。たとえば、エジソンがそうです。エジソンは電球を発明するために1万回以上失敗して、ようやく竹がフィラメントにちょうどいいことを見つけました。失敗がなければ成功はない。だから、あれこれ思い悩む前に、まず動くことが重要。ベンチャーの現場では、精緻な計画よりも速い行動が求められるのです」
――「ベンチャーの現場」という言葉が出ましたが、辻さんは現在所属しているベンチャーキャピタル会社の前に、大企業とべンチャー企業の両方で働いた経験があるんですよね。そのような経験からみて、ベンチャー企業に向くのはどんな人でしょうか?
辻 「ベンチャー企業に入って活躍している人に共通するのは、(1)フットワークが軽いこと(2)新しいことにワクワクする心をもっていること(3)学習する力があることの3点だと思います。なんといってもベンチャー企業は人手不足。言い出した人がそのまま実行者となる世界ですから、常に高い当事者意識をもっていて、自分の意見をすぐに行動に移せるフットワークの軽さが求められます。
それから、先の見えない新しいことにチャレンジしていかなければいけないので、新しいだけでワクワクするような人がベンチャーには向いています。そして、ベンチャー企業では毎日のように想定外のことが起きます。それを成長の機会ととらえて学習していける人がベンチャーでは伸びていきます」