映画「ALWAYS 三丁目の夕日」がヒットするなど「昭和レトロ」が注目を集めているが、「韓流レトロ居酒屋」も静かなブームだ。約1年前に東京・新大久保にオープンした韓国式居酒屋「トンマッコル」もその一つ。若き韓国人オーナーが経営する人気店を訪ねて、コンセプトや工夫を聞いた。
70年代の韓国の下町をイメージ
店内は1970年代の韓国の下町をイメージして、木の柱やハングル文字の看板を使った
トンマッコルが店を構える新大久保は、韓国系の飲食店が軒を連ねる「コリアン・タウン」。そんな立地環境を反映して、客は韓国人と日本人が半々といったところ。20代から30代のグループが中心で、とてもにぎやかだ。
店内の装飾は、韓国の昔の下町のイメージ。ハングル文字の「風と共に去りぬ」のポスターや駄菓子屋のおまけなどがあちこち飾られ、韓国版「ALWAYS 3丁目の夕日」といった感じだ。日本と似たところがあるせいか、韓国の昔も知らないのに、言い知れぬ懐かしさに襲われてしまう。一方で、現代のソウルの学生街にある飲み屋にまぎれこんだような気にもさせられる、不思議な雰囲気をもった居酒屋なのだ。
「店の雰囲気は、70年代の韓国の下町を狙いました。この時代は、韓国では『漢江の奇跡』と呼ばれる高度経済成長が本格的に始まったころで、貧しかったが、皆が希望を持てた時代。みんなで一杯やりながら過ごす時間がとても貴重だった当時の雰囲気を再現したいと思いました」
と、トンマッコルのオーナー、パク・ヒョンウグさんは語る。
忙しい現代社会で、ふと昔を思い出せる場所に
水晶の板で焼くサムギョプサル
バクさんは若干27歳。2004年4月に来日し、日本語学校や服部栄養専門学校に通った後、06年11月にトンマッコルを開店した。
「店の名前の『トンマッコル』は、韓国で大ヒットした映画からとりました。映画では朝鮮戦争の時代に、戦争のことを何も知らず平和に暮らす村が出てきます。『戦争』の時代に『平和』な場所があった。いまでいえば、ビジネスや勉強で忙しい現代社会のなかで、ふと昔を思い出す空気を大事にしたかったのです」
そんなトンマッコルの代表的メニューは、水晶の板で焼くサムギョプサル(豚の三枚肉を焼く料理)。韓国から直輸入した水晶板は熱伝導がよく、肉の旨みを引き出すという。韓国では、焼肉の鉄板にもいろいろなバリエーションがあるが、水晶板を使う店は、近所ではほかに1軒しかないそうだ。
サムギョプサルと並んで目玉となっているのが、いまソウルや釜山で流行っている「フュージョン料理」だ。中華風にアレンジしたチゲ「海鮮おこげ鍋」や西洋風にチーズを隠し味に使った「キムチチーズチジミ」など、韓国料理の伝統に西洋や中華のアレンジを加えているのが特徴だ。
このようにトンマッコルでは、韓国の「昔」の雰囲気を作り出す一方で「今」も演出し、若者を引き付けようと腐心している。
「オモニ(お母さん)がつくる一般的な家庭料理ではなく、若者をひきつける新たな分野の料理に挑戦したい。『フュージョン料理』も、新大久保を訪れる日本人に、韓国の都会では今こんな料理が流行っているという『いまの韓国文化』を伝えたかった」
店のヒントは日本の居酒屋から学んだ
パクさんは27才の若きオーナー
だが意外なことに、この韓国式居酒屋のコンセプトは、日本の居酒屋からヒントをもらったのだという。
「韓国では一つの店が一つの分野の料理しか扱わない。でも、日本の居酒屋の『笑笑』や『和民』では、一つの店でいろいろな料理が楽しめる。そのほうが、日本人も入りやすいでしょう」
そう話すパクさんは「日本人が韓国料理をこんなに好きだとは思わなかった」と驚いたという。
「韓流ブームで、日本人が韓国に関心を抱くことは大変にありがたい。『辛くない韓国料理』を提供すると喜んでくれるなど、日本人は韓国料理の幅の広さと細かいディティールに理解を示してくれるから、うれしいですね」
08年2月1日には、トンマッコルの近くに若者向けのバーを新しく開店する予定だ。マッコリ(韓国のニゴリ酒)や焼酎で割ったカクテルやチューハイのようなオリジナルなお酒を提供し、「日韓の若者が集えるコミュニティーの場」にすることを目指す。