ベータ対VHSの昔から、最新の「次世代DVD」に至るまで、IT・家電の規格争いには「消費者無視」「消費者不在」の批判がつきものだ。しかし、筆者にはそう悪いことばかりとも思えない。妥協の産物によって早々に統一規格が決まるよりは、複数の規格が競争の火花を散らすことで、技術が進展したり、価格低下が早まることはありえるだろう。
ワーナーの寝返りは「小早川秀秋級」の裏切り!?
ソニーのBD-R(1層25GG)メディアは実売で1枚1000円程。HD DVD-Rもほぼ同じ
要は、消費者が「賢者の買い物」をすればよいのだ。今はそのための情報に事欠かない(ありすぎて困るほどだ)。それに、錚々たる企業同士の一大決戦を見物するのは楽しい。Blu-ray(コア・メンバーはソニー、松下、シャープなど)とHD DVD(東芝、NEC)の次世代DVD対決などは現代の"関ヶ原の合戦"のようなものだ。そして、戦場にやって来た者それぞれの思惑も、史実さながらに一枚岩ではない。
本年の年明け早々、中立の立場で両規格にタイトルを供給してきた映画会社のワーナー・ブラザーズがBlu-ray規格に一本化することを表明した。
次世代DVDの主戦場となる家庭用AV分野では、映画ソフトという強大なコンテンツを持つ映画会社の囲い込みが重要だ。ワーナーは米映画DVD販売のトップ(クラス)であり、関ヶ原にたとえるなら、これは小早川秀秋級の裏切りが起きたに等しい緊急事態なのだ。
「血筋」以外の魅力が乏しいHD DVD
国内で唯一HD DVDレコーダーを発売する東芝「RD-A301」。実売10万円前後
同じく様子見を決め込んでいた他の映画会社、コンテンツ・ホルダーも、ワーナーにならってBlu-ray一本化の動きを見せている。さらに、これまでHD DVD支持だったマイクロソフトまでが、将来的にXboxでBlu-rayをサポートする可能性を示唆した。
こうなると、HD DVD陣営は、"西軍"のように総崩れ状態だ。あとは潰走したのち、落ち武者暮らしが待っている――とまで言い切るのには、少々早すぎるだろうか。
ここへ来て流れが一気に傾いた理由は何か。筆者はこの件の専門家ではないが、一ユーザーとして両者を見比べてみると、やはりBlu-rayのほうが魅力的だ。
Blu-ray陣営はディスク容量を200GBまで拡張可能といった発展性を示し、PS3などにも搭載して、現実にシェアを獲得していった。対するHD DVDは、DVDの規格を策定する「DVDフォーラム」で提唱された、現行DVDの「正統な後継者」であるという"血筋"以外、ハッキリとした優位性が打ち出せていないように見える。なんだか、この点も西軍に通じるような気がしてくる。
Blu-rayが「勝者」とは限らない・・・
売れ行き絶好調とは言えないPS3だが、BDの普及には一応一役買った
「Blu-rayが優勢」。このニュースは、あちこちで大きく報道されていたが、そのうちに、筆者は若干の違和感を持つようになった。たしかに次世代DVDの"対決""勝負"は面白い。しかし、このパッケージメディアの対決から、必ずしもネット&デジタル界の「次世代」が見えるとは限らないのだ。
「勝者はBlu-rayでもHD DVDでもなく、ハードディスク」という主張を展開するSeagate(シーゲイト)のCEOも同じ意見らしい。この会社はHD製造メーカーなので我田引水的な発言であり、そもそもHD会社がフラッシュメモリーを仲間扱いしてよいのか疑問だが、それでもこの言葉は示唆に富む。
たとえば「音楽」というジャンルでは、ネット配信とデジタル音楽プレーヤーの普及で、CDというメディアの役割は相対的に低下した。今後、より高速なネットワーク環境が行き渡り、HDDレコーダなどを含めたストレージが高容量化すれば、映像分野で同じことが起きてもなんら不思議ではない。
次世代DVDの関ヶ原はようやく終わろうとしているが、そのすぐそばには、もう「黒船」が来ているのかもしれない。
虎古田・純