2007年を振り返ると、今年もネット&デジタル界には数え切れないほどの新商品・サービスが隆盛したが、そのなかでSecond Life(セカンドライフ)の毀誉褒貶は特筆に値するだろう。
セカンドライフ(以下SL)は、米リンデンラボが運営するサービスで、仮想3D世界(空間)、またはメタバースなどと呼ばれる。バーチャル3D空間のなかで、自分の分身であるアバターを操作して、他者と交流し、仕事をしたり、買い物をしたり、趣味を楽しんで、"第二の人生"を過ごすというものだ。
最大の特徴はカネが稼げること!?
日産の「空飛ぶ自動車」はセカンドライフを盛り上げてくれたが・・・
「仮想世界」とは言うが、3D空間内でチャットなどのコミュニケーションをするというコンセプトはネットの太古から存在するし、アバターならYahoo!掲示板でもお目にかかれる。それらとSLの一番の違いは、ユーザーが仮想空間のなかに土地を所有(購入)し、それらを売買(リセール)できること、そしてゲーム内で得た通貨(リンデンドル)を現実の米ドル通貨と交換できる仕組みだろう。
また建物やアバターのパーツなど、自作のコンテンツをアップロードしたり、配布(販売)できる。つまり、ユーザーがSL内で土地やモノ、サービスを販売して、リアルマネーを稼げるのだ。現に土地売買で億万長者になったユーザーが大きな話題となった。
2007年前半は、まさに「セカンドライフ元年」の勢いで、国内の注目度も過熱する一方。一大ブームの予感を漂わせた。リサーチ機関は途方もない額の経済成長予測をぶち上げ、経済誌は巻頭特集を組み、専門誌が創刊。日本企業も雪崩を打ってSLに参入――。
秋風吹けば、バーチャル街路も閑散と
スプリューム内の夜景。効果音などサウンドがついてないのはさびしかった
ところが秋風が吹く季節になると、熱も冷めてきた。実のところ、登録ユーザー数から想像されるほど、定期的にログインし、活動するユーザーは多くない。国内では10万人にも満たないという。よくあるのは、「名所」を一回りして、こんなものかと満足して終わり、というパターンだ。
最近では、SL内に立派な建物が多いのに人気が少ないことから、「仮想空間」ならぬ「過疎空間」だ、などと揶揄されている。筆者も「あれは電通の仕掛けで中身はないよ」といった“真相”を聞くようになった。ただの踊り場なのか、ぶち当たった天井なのか、とにかく今年後半には逆風が強まった。
「和製セカンドライフ」、似て非なるその実体
ViZiMOでは、各ユーザーの「ViZiルーム」という形で、3Dコンテンツを公開する
一方、この微妙な時期に、国内の企業によって、メタバースの一種と目されるサービスが相次いで産声を上げている。
今回あらためて――運営サイドが好むと好まざるとに関わらず――SLと比較されるこれらのサービスを体験してみたが、その中身は多種多様。一様に「和製セカンドライフ」とは呼べない。たとえば、splume(スプリューム)やViZiMOは、SLのように、広大な仮想空間がシームレスに展開するわけではない。土地所有の概念や通貨の流通もなく、第二の"世界"と言うには物足りない。SLとの共通点は3D空間があることぐらいだ。
ただ、splumeは何をしたいサービスなのかよくわからなかったが、ViZiMOはユーザーが作成した3Dゲームや展示をSNSのコンテンツとして扱う姿勢を明確に打ち出している。それはそれで、面白い仮想3D空間の活用法に思われた。
「meet-me」はバブルの巨大遺跡になる!?
セカンドライフを強く意識したメタバースのmeet-me。建物はセカンドライフより立派だ
先の2つにくらべて、SLをよりダイレクトに意識していると思われる"本格派"が、ココアの「meet-me」だ。12月16日から25日まで人数限定で試験公開していた。1月23日から再開される予定だ。
東京23区の地理を仮想空間上に再現した点が売り物で、ユーザーのマップ上には「笹塚」など現実同様の番地が表示され、東京タワーなど各所のランドマークもある。アバターをはじめとするグラフィックは、SLにくらべて明らかに日本人好み。丸味を帯びていて、色も鮮やかだ。
ユーザーの自由度の高いSLに対し、マップを「東京23区」に限定したように、meet-meは運営者側がある程度の制限を設けつつ、「心地良いおせっかい」を提供するとしている。
心地良いかどうか。筆者にはユーザーをどう楽ませるかというアイデア、演出に乏しいように思えた。まだ試験段階とはいえ、今後、よほど強力なプラスアルファがないと、"23区"がユーザーの建築物や訪問者で、過密なほど賑わう様子は、ちょっと想像できない。セカンドライフ・バブルの思い出となる巨大遺跡になってしまわないかと心配である。
セカンドライフの欠点はクリアーしているが・・・
SLによく寄せられる批判――
「ザラリとしたマットな質感のグラフィックになじめない」
「自由度が高すぎて、何をしていいのかわからない」
「あくまで英語圏向けに作られている」
国産「メタバース」の面々は、それらの問題をほぼクリアしていた。だが、ただそれだけだ。残念ながら、欠点が山のように多いSLほど魅力的とも言えないのが現状だった。
虎古田・純