自分の手で土を耕し、作物を収穫する。農作業を通じて、暮らしの知恵を学ぶ――「農」ある暮らし。機械化の進んだ現代でも、生活の一部に「農」を取り込んで暮らしている人々がいる。住まいと暮らしの季刊誌「住む。」では、そんな「農」のある暮らしの風景を取り上げた。その中で注目したアイテムが「野良着」だ。
暑いときは涼しく、寒いときはふんわり
着心地の良さから普段着として愛用する人もいる「たももシャツ」(写真・谷脇貢史/「住む。」23号掲載)
野良着は文字どおり、野良仕事をするときに着る衣服。庭先の菜園で、べランダで、あるいは貸農園で農作業をするときに身につける。着心地が良くて、作業がしやすい。
代表選手は、日本独自の野良着「もんぺ」。ここでは、深い紺色が印象的な武州正藍染めの「たももシャツ」を紹介したい。
武州正藍染は、かつての武州、現在の埼玉県北部で江戸時代から続いている伝統的な染物。このたももシャツは、埼玉県羽生市で4代にわたって職人の手技を受け継ぐ、紺屋「野川染織」の野良着だ。
タデ科の一年草、タデアイを発酵させた天然染料“藍”は他の天然染料と違い、繊維を強くする作用があるとともに、独特の芳香による防虫効果ももつ。綿100%のたももシャツは暑いときは涼しく、寒いときはふんわり。着心地の良さから、普段着として愛用する人も多いそうだ。そして着るほどに、洗うほどに肌になじみ、藍の色が美しく変わっていく。
そんな藍染めの技を守り抜く野川染織の藍染め工場は昭和の古い木造家屋だ。羽生市にはかつて100軒以上の紺屋があったが、いまでは野川染織を含めて3軒しか残っていない。染めも織りも昔に比べて機械化が進んでいるが、生き物である藍の様子を見極めながらの染織には熟練の技と感覚が問われる。
「もともと紺屋は、親父が染めて女房が織る、というような、農家の家内工業として始まったんです。広大な関東平野を耕す野良着の需要がありました。農業が機械化される昭和40年代までの話です」
野川染織4代目の野川雅俊さんは語ってくれた。野川さんが糸を染め、母と妻が縫製、いまも家内工業の延長で、技を受け継いでいる。
「住む。」編集部