世界初の有機ELテレビ「XEL-1」をソニーが2007年12月1日に発売する。といっても、実際には11月22日ぐらいから前倒しで売り出され、すでに初回入荷分を完売した店もある。画面サイズ11V型(横25.1cm×縦14.1cm)で実売価格約20万円。今回は、世界初で、おそらく世界一コストパフォーマンスの悪いテレビを取り上げてみたい。
液晶、プラズマを超える夢のテレビが来る!?
XEL-1の希望小売価格は20万円。現在は、ほぼ定価で販売されている。
もう5年以上前だと思うが、液晶、プラズマを超える次世代のテレビ技術として、有機ELが喧伝されていたのを筆者は鮮明に覚えている。
高画質で、応答速度は速く、薄型で低消費電力。課題点はコストとパネルの寿命、そして何より画面を大型化することだったが、その近未来は明るく思えた。有機EL王国の来たらんことを確信した筆者は、着々と薄型・大画面化する液晶テレビに背を向け、「きっと有機ELが来る」と待ち続けたのだ。
当時の予測からすると、今頃までには王国が勃興してるはずだった。この間、有機ELは携帯音楽プレーヤーや携帯電話のディスプレイに採用されたが、ことテレビとなると、勇ましい論調はいつしか消え、大画面化が見込みより難航しているらしいとの報道が聞こえてきた。またしてもトレンド予報に踊らされたかと失望していたところに「有機ELテレビ発売」のニュースが飛び込んできたのだ。
その画質、息をのむほど美しい
最薄部約3mmの薄さを見せつける横向きのショットが多い。
XEL-1を探して、最寄りターミナル駅近くの家電量販店を回ってみると、どの店もテレビ売り場の入り口に2台セットで展示していた。正面を向いて映像を表示するものと、横向きのもの。これは最薄部3mmという画面の薄さを強調するためだろう。
映像の美しさ、艶めかしさは事前に聞いていたが、いざ目の当たりにすると息をのむほどで、長い間みとれてしまった。同じ売り場の有名ブランド液晶テレビが、ピンぼけでザラついた、質の悪いカラーコピーに思えてしまう。とにかく、テレビを見る人ならば、一見の価値はある。
「実験的商品」に意外と辛口な販売員たち
売り場の店員たちに話を聞いた。冷やかしだとバレるのか、次第に熱のない口調になっていくが、それと同時に本音らしきものを覗せる。
彼らは予想外に辛口だった。「まあ話題性はありますけどね」「ソニーの実験的商品ですよね」「有機ELテレビの将来性はまだよくわからない…」。
ある店は「大人気につき、入荷分完売。次回入荷未定」と景気が良かったが、別の店では、ちょっと気になる話も聞いた。売り切れや入荷未定といった事態が起きているのは、製造時の不良品発生率が高く、生産が安定しないからだというのだ。
最後の店を去るときにもXEL-1は同じように輝いていたが、なんだかパーティーが終わった後の胡蝶蘭でも見るような気がしていた。
悲観論と楽観論が相半ばする現状だが…
今日では有機ELテレビに対する懐疑的な見方も少なくない。11型を商品化するのが精一杯の現状。このサイズで20万円では、好事家に一通り行き渡ってお終いだろう。いくら画面が綺麗でも、大型化のロードマップは不鮮明のまま――。
その一方、問題はいずれ解決するとの見方も、夢のテレビが喧伝された当時と変わらず存在する。どちらが正しいのか。未来予測はなんとも難しく、筆者はトレンド予報士の資格を持ってないので軽々な予測は慎みたい。
ただ、有機ELテレビを見た後となっては、これだけは言いたい。あの映像を“徒花”で終わらすのは、あまりに惜しい。残酷ですらある。あと何年かかろうとも、有機EL王国の到来を待望する。
虎古田・純