広島県は、世界に羽ばたき急成長を目指す企業を支援する「ひろしまユニコーン10」プロジェクトを展開している。
その一環として、広島県内で実証実験を行う企業などをサポートする「サキガケプロジェクト」の採択企業の中で、存在感を高めているのが、株式会社エイトノットだ。
「あらゆる水上モビリティを自律化し海に道をつくる」をミッションに掲げる同社の広島県での奮闘、そして未来について、代表取締役CEOの木村裕人さんに聞いた。
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エイトノット 代表取締役CEO・木村裕人さん
船を容易に安全に操縦できれば、生活が豊かになる
――AIを用いた船の自律航行技術の開発を始めたきっかけをお聞かせください。
木村裕人 もともとマリンスポーツが好きなんです。ある時、一級小型船舶操縦士の免許をとってボートに乗ったところ、操船が思いのほか難しくストレスがあったんですね。ボートが突然現れたり、障害物が多かったり。船をもっと簡単に、しかも安全・安心に楽しめる方法はないかと考えたのです。
船舶事故の原因を調べたら7割以上はヒューマンエラーだということがわかりました。以前、私はコミュニケーションロボットの開発をしたこともあり、そこにAIを組み合わせたら、自律航行技術が確立できると思ったのです。
いまは船に乗ることが非日常的ですが、その技術によって船が日常化して自由自在に移動できるようになれば、それだけ人の生活が豊かになるはずです。
たとえば船をタクシーのように使えて、離島での暮らしも楽になるのではないか。将来的には、人が操船しない自律航行が可能になると思います。そうなったら、たとえば複数の船を1人の「陸の船長」が監視をしながら、何かあればすぐに駆けつけられるような態勢を整えれば、船の可能性は限りなく広がると考えました。
ビジネスの面でも、世界を見渡しても、新しい船に自動航行のシステムを搭載することはできていても、既存の船にシステムを乗せることはできていません。船の寿命は30年近くと長いので、現存するどんな船にもシステムを搭載できる技術が開発できれば、市場は大きいと思ったのです。
――広島県とのつながりができた経緯と、支援の内容を教えてください。

実証実験では「資金面や実証フィールド関係者との調整といった広島県からの支援はありがたかった」と木村CEO
木村裕人 スタートアップを立ち上げるにあたって、ベンチャーキャピタルにアプローチしていましたが、タイミングよく、広島県が2021年度、課題解決型のプロジェクトの実証実験を応援する「D-EGGSプロジェクト」を展開していると知りました。
応募したところ採択され、その資金をもとに実験船を造りました。実証実験に協力する自治体への仲介もありがたく、瀬戸内海のほぼ中央に位置する大崎上島町との橋渡しがあってこそ、その後も続くことになる実証実験もうまくいったと思います。縁のない人間がお願いしても難しいのですが、県のバックアップは助かりました。
自律航行船は、カメラやセンサー、そしてGPSなどを活用し、接近する船や障害物をサーチし、安全で最適なルートを探して航行します。船を操縦するのは人ではなく、AIとロボティックスを活用した技術です。「エイトノット AI CAPTAIN」(以下、AI CAPTAIN)という自律航行プラットフォームを用います。
2021年の実証実験では、これを小型ボートに搭載し、日用品やゴミなどを大崎上島から400メートル北にある生野島に運びました。安全に航行できたことで実験は成功し、私たちのアイデアが机上の空論ではなく、実践できる技術であることが証明されたのです。