コロナ禍で急増の国の「基金」...非効率、不明朗な運営相次ぐ ゆるみきった財政のタガの締め直し、容易でなく

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   経済対策の補助金などとして使われる国の基金の非効率、不明朗な運営が相次いで明らかになっている。基金は新型コロナウイルス禍で急増したが、長年経過したものの中には「休眠」「塩漬け」などと評されるものも目立つ。

   岸田文雄政権は見直しに取り組むというが、2023年11月29日には基金への支出4.3兆円が盛り込まれた23年度補正予算が成立した。コロナ禍で水膨れした財政のタガを締め直し、歳出構造を「平時」に戻すのは容易ではない。

中長期的な課題、機動的に必要な支出に対応...例外的に認められる「基金」 岸田政権はコロナ後も積極的

   日本の予算は年度ごとに編成し執行する「単年度主義」という大原則があり、国会の議決を経て決める予算はその年度に使うことになっている。野放図に財政を垂れ流すようなことがないようにという考え方だ。

   ただ、中長期的に取り組むべき課題、機動的に支出すべきものもあるということで、例外として基金が認められている。特定の事業について複数年度にわたってプールし、必要な時に機動的に使えるのがメリットだ。

   ところが、使い道が不明瞭だったり、設定後の管理がずさんになったりする問題が指摘される。

   実際の基金は、独立行政法人や公益法人などが国から交付された補助金などを原資として他の財産とは分けて保管する。国の予算に金額を計上して新規に組成したり、既存の基金に積み増したりする。

   これが近年、コロナ対応を「錦の御旗」に急増。岸田政権はコロナ後も積極的に使っている。

◆2022年度末時点、約190の基金の残高は計16.6兆円 コロナ前の19年度末の約7倍

   数字を見ておこう。内閣府によると、2022年度末時点で約190の基金の残高は計16.6兆円で、コロナ前の19年度末(2.4兆円)に比べて約7倍に増えた。コロナ禍の経済対策で基金の創設や積み増しが一気に進んだためだ。

   コロナ前は各年度、数千億~1兆円程度だったが、20年度に11.5兆円、22年度に10.6兆円と急膨張した。23年度補正予算も4つの基金の新設を含めて、計4.3兆円を積み増した。

一度できたら所管省庁の既得権として存続しつづける... コロナ禍が一段落しても、危機前提の支援も

   ただ、非効率な運営が目立つ基金は多い。

   基金の問題を熱心に追及している朝日新聞が、13府省の所管する約190事業の公表資料を分析したところ、休眠状態となっているものが29(22年度末時点の残高は計1.4兆円)。このほか、役割を終えたにもかかわらず、人件費や運営費などを合わせた管理費には計5.8億円の支出を続けているという(23年10月30日朝刊)。

   たとえば、12年に設置された経産省の「円高・エネルギー制約対策のための先端設備等投資促進基金」(2000億円)。

   同基金は14年3月に新規受け付けを停止し、14~16年度に年100億円規模を国庫に返還した。だが、今も基金は残り、管理費として20~22年度に500万~2500万円を支出し続けている。

   一度できたら所管省庁の既得権として存続しつづけるということだろう。

   政府の行政事業レビュー(11月11、12日)でやり玉に挙がったのが、経済産業省所管の「中小企業等事業再構築促進基金」。

   ポストコロナに向けた中小企業の建物の改修費用や機械導入費などを補助するために2021年度に新設され、これまでに計2.1兆円の予算が計上されたものだ。しかし、コロナ禍が一段落しても、危機を前提にした支援が続いていると指摘されている。

政治判断の名のもとに新設され、金額が跳ね上がる例も

   財務省の資料によると、直近の公募では、採択された約5200件のうち、79件がシミュレーションゴルフなどゴルフ関連で、59件がエステ関連。さらに、この基金の補助金の審査や政策効果の分析などが人材派遣会社パソナに委託されていることも、問題視されている。

   基金が政治判断の名のもとに新設され、金額が跳ね上がる例も報じられている。

   20年12月に補正予算で新設された「グリーンイノベーション基金」は「脱炭素」を政権の看板に掲げた菅義偉首相(当時)の指示を受けたものだった。

   当初、水面下の財務省と経済産業省の協議で、まず1兆円を計上し、実績を踏まえてその後毎年予算を追加していき、最終的に総額2兆円に広げることで大筋合意していた。にもかかわらず、菅首相の鶴の一声で、いきなり2兆円の基金でスタートしたという。

   23年度補正予算の「目玉」として岸田政権が重視する半導体支援でも、海外メーカー誘致、国内メーカー育成など複数の関連基金への積み増しの協議の過程で、経産省が政権の意向を背に前年度の補正予算(1.3兆円)の2.6倍にあたる3.4兆円を要求し、結局、2兆円の積み増しで決着した。

基金の見直し案、検討進む ポイントは、目標の設定と期間の明確化

   政府もようやく対応に乗り出し、岸田首相の指示を受け、年内に見直し方針をまとめると表明した。11月22日、見直し案をまとめ、首相官邸で開いたデジタル行財政改革会議で、河野太郎デジタル行財政改革担当相が説明した。

   見直し案は、目標の設定と期間の明確化が二本柱だ。

   まず、基金をつくる際は、具体的な数値目標を設定することを打ち出した。3年程度をめどに達成状況を点検し、予算をさらにつけるか否かを判断。各年度の必要額が予測できる事業には基金ではなく、単年度で予算に盛り込むべきだとしている。

   基金の期間については、2006年に「原則として設置後10年を超えない範囲内で事業終了」とした基準を閣議決定した。しかし、現行の約190基金のうち約3割に当たる65の基金で期限の定めがなく、期限や成果があいまいなまま、長期にわたって存続する基金もある。

   このため見直し案では、基金新設の時に、終了予定時期を明示することも求めるとしている。

新聞大手も厳しく注文 現状の大幅積み増しを疑問視 実効性ある仕組み求める

   こうした一連の動きに、大手紙も厳しく注文している。

   朝日新聞は11月25日社説で「岸田首相は今週、基金全体の見直し方針を年内にまとめるよう指示した。だが一方で、政権は『予算の単年度主義の弊害是正』を大義名分に、基金の積極的な活用に拍車を掛け続けている。今年度補正予算案にも4兆円余りを計上した。半導体産業の支援に2兆円を追加するなど破格の手厚さだ。『緊要な経費』を手当てするはずの補正に乗じて、十分な審議を経ずに巨費を積むようでは、『基金見直し』も形ばかりと疑わざるをえない」などと、岸田政権の見直しの「本気度」に疑問を呈する。

   日経新聞も補正予算案の審議を前に、11月17日社説で、「当初予算の枠外である補正での積み上げが横行している」と、基金の大幅積み増しを疑問視。

   毎日新聞は11月27日の社説で、基金膨張の背景として「政府の思惑がある。経済対策の規模を大きく見せて、国民にアピールすることを優先したのだろう。省庁の縄張り意識も働いている。既得権として手放したくないのが実態ではないか」と指摘。見直しの方針については、「かけ声倒れに終わらせず、政府は実効性ある仕組みを作らなければならない」とくぎを刺している。

   八方ふさがりの岸田政権に、問題にメスを入れる力はあるのか。逆に、思い切った見直しで国民にアピールするのか。いずれにしても、いばらの道であるのは間違いない。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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