貿易拡大が眼目でないIPEF 新興国への「実利」もたらせるかが成否を左右
IPEFは多国間の経済協議だが、TPP(日豪英加、メキシコ、東南アジアなど12か国)や地域的包括的経済連携(RCEP、日中韓豪、東南アジアなど15か国)などのように、貿易について市場開放(関税の引き下げ、撤廃)を中心にした貿易拡大を眼目にしているのではなく、労働・環境などの面で基準を満たした国に便宜を与える、などの内容が中心になるのが大きな特徴だ。
逆に言うと、参加国(とくに東南アジアなどの新興国)には米国という巨大市場の開放で自国の輸出を増やせるという直接的メリットがない。
それらの国々は中国との貿易関係が強く、米中の間で様子を見ながらIPEFにも参加しているのが実際のところだ。その意味からも、新興国にどんな実利をもたらすことができるかがIPEFの成否を左右する。
◆「重要鉱物対話」、重要鉱物の輸出制限など威圧的態度を振りかざす中国への依存度を下げる狙い
こうした事情を踏まえ、今回の合意を見ておくと、まず、脱炭素に向けた「クリーンな経済」では、新興国の脱炭素化の支援で日米豪が3000万ドル(およそ45億円)規模を拠出する基金を創設すると打ち出した。
これとは別に、日本は2023年度補正予算案に盛り込んだ1400億円のグローバルサウス支援策について、IPEF参加国に優先的に配分すると表明。岸田文雄首相は会合で「実体的なメリットを提示できるよう日本として取り組んでいく」と述べた。新興国のメリットを強調したものだ。
税逃れ防止などの「公正な経済」では、マネーロンダリング(資金洗浄)対策や腐敗行為の防止策をとることで一致。ただ、単なる先進国からのルールの押しつけでなく、新興国への投資拡大策と併せて示し、ルールの順守を促していくとした。
「供給網強化」は5月に先行して合意していた。有事に特定の国で物資が不足した場合、IPEFのネットワークで新たな輸出先を開拓することなどが盛り込まれた。
供給網とも関連し、新たに開始する「重要鉱物対話」は、重要鉱物の輸出制限など威圧的態度を振りかざす中国への依存度を下げることが狙いだ。
IPEFの参加国には、ニッケルの埋蔵量が豊富なインドネシアやフィリピンなど重要鉱物の供給国が含まれている。資源調達国である日米などの企業が産出国への投資を増やし、供給網の結びつきを強めていくとみられる。