NTT法の改廃法をめぐる議論がクライマックスに差し掛かっている。
自民党で廃止に向けた議論が進む一方、KDDIなど他の通信大手は廃止に強く反対している。政府も総務省の審議会で議論を進めているが、決着は容易でなさそうだ。
NTT法の規定では、政府が発行済み株式の3分の1以上を保有 見直し議論の発端は、防衛費倍増の財源確保
NTTは旧日本電信電話公社(電電公社)が民営化され1985年に発足し、同時にNTT法ができた。
同法は、国民生活を支えるユニバーサルサービスとして固定電話を全国「あまねく公平なサービス」として提供すること。そして、電気通信技術の普及のための研究成果の公開をNTTの「責務」として規定。そのために、政府が発行済み株式の3分の1以上を保有すると定めている。
だが、J-CAST 会社ウォッチが「動き出した『NTT法』見直し...与党の狙いは、政府保有株の売却? 防衛費、子育て予算拡大のための『財源確保』の思惑なのか...」(2023年9月5日付)で報じたように、今回の見直し議論の発端には、防衛費倍増の財源確保がある。
自民党の議論では「競争力強化」が大義名分に GAFAなどとの競争でNTT法が制約
自民党は増税以外の防衛財源の確保策を検討する党内の特命委員会に、NTT法のあり方に関するプロジェクトチーム(PT、甘利明座長)を設置した。防衛財源確保のため政府が保有するNTT株を売却して完全民営化するには、NTT法の改正、または廃止が必要ということだ。
ただ、自民党の議論では「競争力強化」が大義名分として掲げられもしている。
GAFAなど米IT大手との競争では、NTT法が制約となっている。たとえば共同で技術開発する際、パートナー企業にとっては研究成果の公開が懸念材料になる。
法施行時は固定電話が生活に欠かせないものだったが、いまや携帯電話が主体となった。そのため、固定電話の需要は落ち込んで、ユニバーサルサービスとしての位置付けは大きく低下しており、そのコスト負担がNTTの競争力をそいでいるという指摘だ。
自民党内のこうした主張はNTTの意向を踏まえたもので、NTTが手掛ける次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」など先端技術開発を後押しし、国際競争力を強化したいとの狙いがある。
これに対し、ライバル社は反発している。
KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなどは、NTTが電電公社から引き継いだ通信網や電柱などは「特別な資産」で、これを保有したままNTT法が廃止されれば、そうした資産を持たない他者と公正な競争環境は保てないという主張だ。
楽天モバイルの三木谷浩史会長は自身のX(ツイッター)で「国民の血税で作った唯一無二の光ファイバー網を完全自由な民間企業に任せるなど正気の沙汰とは思えない」「最悪の愚策」と投稿(11月14日)して法廃止を強くけん制。
これに対してNTT広報室の公式アカウントが17日、「保有資産は最終的には株主に帰属するのでこの主張はナンセンス」などと反論する事態になっている。
プロジェクトチーム原案では、NTT法の廃止を「25年の通常国会」までに 反論も噴出...基礎研究の取りやめ、全国の一律サービスの提供などに懸念
そんな対立構図は、自民党内の議論にも反映している。
プロジェクトチーム(PT)は11月16日、NTT法を巡る提言の原案をまとめ、情報通信戦略調査会(野田聖子会長)との合同役員会を非公式に開いて議論した。
PT原案は、24年の通常国会でNTT法を改正し、研究成果の公開義務の規定を撤廃。その後に環境整備をしたうえで、25年の通常国会までにNTT法を廃止するという2段階廃止論だ。
これに対し、調査会側から反論が噴出した。
研究成果の公開義務がなくなれば、NTTは収益の上がりにくい基礎研究をやめてしまうと指摘。
法の廃止で全国一律のサービスや公平な競争の環境が失われるとの懸念があるとして、この点を法的に担保できると結論がつくまでは「廃止の期限を明示するのは適当ではない」と訴えた。
PT側は、電気通信事業法の改正により、不採算地域でNTTを退出させない規定やNTTグループの一体化が進まないよう統合を禁止するルールを設けられると主張。
外国資本による買収防止を念頭に、外為法改正で外資規制を補強すれば、経済安全保障の面でも問題なくNTT法を廃止できるとの考えを示した。
PTは22日、修正案をまとめ、「25年の通常国会まで」と期限を切っていたNTT法廃止について「25年の通常国会をめど」とする案を示し、調査会側の理解を得て月内に提言をまとめる方針だ。
廃止の前提となる「必要な措置」について、調査会側は具体的に記述することも求めるなど、ギリギリの調整が続く。
防衛費確保のための増税、先送りで...NTT法廃止によるNTT株売却への熱量も低下?
他方、政府は、総務相の諮問機関の情報通信審議会に8月、NTT法と電気通信事業法のあり方について諮問した。審議会内に設けた電気通信事業政策部会で議論し、2024年夏ごろに答申する予定だ。
NTT法を見直し、業界全体を統括する電気通信事業法で、固定電話にこだわらない「あまねく公平なサービス」の提供をいかに確保するか。その際の公平なサービスとしてNTT以外の事業者を含め、責任を担うどのような仕組みを整えるか、議論していくことになる。
このように見ると緊迫した展開に思えるが、実は、24年度以降とされていた防衛費確保のための増税はすでに25年度に事実上、先送りされている。
そのうえ、税収の好調などを背景に、さらに先送りや増税回避論までささやかれており、「NTT法廃止によるNTT株売却への熱量は急低下している」(大手紙政治部デスク)。
自民党内の議論も、PTとしての提言はまとまるかもしれないが、これまでの議論は文言を巡るものにとどまり、NTTの在り方を真剣に検討しているとは到底いいがたい状況だ。 政府内の検討を含め、NTT法廃止問題が簡単に決着するとみるのは早計のようだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)