2024年の春闘、かつてない賃上げムード盛り上がるが...「原資確保」苦しむ中小企業にまで広まるのか?

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   2024年の賃上げへの関心が高まっている。

   連合は24年春闘に向け、定期昇給分を含めた賃上げ要求を「5%以上」とし、23年を上回る目標を掲げる。経団連も賃上げに前向きの姿勢を示すなど、かつてなく賃上げに向けムードは盛り上がっている。

   ただ、中小企業の苦境は続くなど、懸念材料も少なくない。

前年割れ続く「実質賃金」背景に、賃上げ要求強まる UAゼンセン、「6%基準」求める方針

「今年(2023年)の春闘で高水準の賃上げを実現したが、それ以上に物価が上がり、実質賃金が上がっていない」

   10月中旬に開催された連合の中央執行委員会の後、芳野友子会長はそう述べた。

   23年春闘では、連合傘下の労働組合の平均賃上げ率は3.58%と、30年ぶりの高水準を達成した。しかし、物価の影響を考慮した実質賃金は前年割れが続いており、いっそうの賃上げが必要だ。

   このため連合は「5%程度」とした23年の賃上げ要求を強め、24年には「5%以上」を掲げることにした。

   流通やサービスなどの産業別労働組合「UAゼンセン」は11月初旬、24年の春闘で、連合の目標より高い「6%基準」の賃上げを求める方針を明らかにした。23年春闘では「6%程度」を掲げていたため、連合と同様、やはり表現を強めている。

   経営側の前向きな対応も目立つ。

   24年度に向けてはすでに、作業服大手のワークマンが正社員やパート社員の賃金を平均で5.1%引き上げると発表している。そのほか、第一生命ホールディングスが営業職員らを対象に平均7%の賃上げを行う方針を固めた、と報じられている。

   賃上げの動きは着実に盛り上がりつつあるようだ。

◆経団連・十倉会長「2%程度のインフレに負けない賃上げを」 岸田首相「今年を上回る水準の賃上げのご協力を」

   経団連の十倉雅和会長は11月6日の記者会見で「政府・日銀は2%の物価上昇を目指すとしているが、適度な物価上昇を前提に、中長期にわたって構造的な賃上げをしていく。2%程度のインフレに負けない賃上げをしていく」と述べている。

   政府も賃上げに向けた強い姿勢を打ち出している。

   11月に開いた政府と経済界、労働界の代表者が協議する政労使の会議で、岸田文雄首相は「来年の春闘に向け、今年を上回る水準の賃上げのご協力をお願いいたします」と強く呼びかけた。

価格転嫁が難しい中小企業...政府も賃上げ支援に乗り出すが、効果は未知数か

   こうした中、24年の春闘については「引き続き賃上げの動きは続くだろう」(アナリスト)との見方が一般的だ。

   背景として、「企業の人手不足感が一段と強まっていることも追い風になる」(同)ほか、若い世代を中心に転職の動きが広がっており、これも賃上げにつながると指摘される。

   ただ、こうした流れが労働者の7割が働く中小企業にまで広がるかは不透明だ。

   賃上げの原資を作ることに苦しんでいる中小企業は多く、東京商工リサーチによれば、23年の春闘でも、賃上げを実施した企業は大企業で89.9%なのに対し、中小企業では84.2%にとどまった。

   実際、「大企業に比べて中小企業は価格転嫁が難しいことが壁になる」と今後への懸念も多く、中小企業がどこまで賃上げに踏み込めるかが春闘全体の成否を左右することになる。

   そこで、11月に決めた政府の経済対策では、岸田首相の肝いりで、中小企業の賃上げ支援を表明。赤字企業でも賃上げをした場合、後年に黒字になった際に税制の優遇を受けることができる繰越控除制度の創設を打ち出したが、効果は未知数だ。

「賃金と物価の好循環」生み出したい岸田首相 いまがデフレから脱却するチャンス...政権浮揚の最大のポイント

   いずれにせよ、物価高騰が23年の春闘の賃上げの大きな追い風だった。

   ということは、逆に、「物価が落ち着いてくれば、賃上げの追い風も当然、弱まるだろう」(与党議員)との見方も少なくない。賃上げの大きな流れは続くとしても、低水準の賃上げに終わる可能性もある。

   岸田首相は「賃金と物価の好循環」――つまり、原材料価格や人件費の上昇に見合った価格の引き上げがされ、それにより企業業績が安定的に上向き、賃金上昇につながる、というサイクルの実現に全力を挙げる考えだ。

   現状をデフレから脱却するチャンスと位置づけ、給付金や所得減税をあわせ、賃上げの流れを実現することで、減り続ける実質賃金をプラスに転じることが、政権浮揚の最大のポイントと位置付ける。

   24年春闘が、まさに岸田政権の命運を左右することになりそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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