減資で課税逃れる「疑似中小企業」後絶たず 総務省、抜け道ふさぐ「新基準」導入へ動き急...経済界は反対

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   大企業が資本金の減資で税制上の「中小企業」になって地方税負担を軽減する例が後を絶たないことから、総務省がそうした「抜け道」をふさぐ方策を打ち出した。

   ただ、既存の中小企業にも影響が及ぶとあって、経済界からの反対の声が上がっており、一筋縄ではいきそうもない。

  • 減資で課税逃れる「疑似中小企業」後絶たず(写真はイメージ)
    減資で課税逃れる「疑似中小企業」後絶たず(写真はイメージ)
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「資本金1億円」以下は税制上の「中小企業」になり、「外形標準課税」を免れる

   問題になっているのは、企業が納める法人事業税(都道府県税)。普通の法人税と同様に利益に応じて課税される部分のほか、一定規模以上の大企業には、企業の規模に伴い課税される「外形標準課税」という仕組みが取り入れられている。

   資本金額や従業員に支払った給与総額など、企業の規模を示す「外形」に則って課税するもので、赤字で所得税は納めていない企業も支払わなければならない。

   黒字か赤字かにかかわらず、法人がその事業活動を行うに当たって地方団体の各種の行政サービスの提供を受けることから、これに必要な経費を分担すべきであるという考え方に基づいて設けられている制度だ。

   自治体としては、景気変動に左右されずに安定的な税収が得られる点も重要だ。

   だが、問題は、外形標準課税される線引きの「資本金1億円」だ。それ以下は税制上の「中小企業」になり課税を免れるため、大企業であっても資本金を1億円以下に減資するケースが相次いでいるのだ。

コロナによる業績悪化が引き金...JTB、HIS、飲食関係の大手有名企業も、相次いで減資

   「疑似中小企業化」が広がったきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化だ。

   この間に減資した企業は、旅行大手のJTBやエイチ・アイ・エス(HIS)、回転ずしチェーンのカッパ・クリエイト、飲食情報サイトのぐるなび、「いきなり!ステーキ」などを運営するペッパーフードサービス、料理宅配の出前館、経営再建中の後発薬の日医工など有名企業が並ぶ。

   総務省によると、2021年度の「資本金1億円超」の企業数は1万9394社で、ピークだった06年度の2万9618社から3分の2に減っている一方、資本金がジャスト1億円の企業は約4000社増えている。

   東京商工リサーチのまとめでは、22年4月~23年3月の1年間に1億円以下に減資した企業は前年より29%多い約1200社と、減資の勢いは衰えていない。こうした中に「疑似中小企業」が含まれると指摘されている。

   減資は、一般的には年々の赤字で生じた欠損金を資本金で穴埋めする手法だが、2006年の法改正で資本金を資本準備金(資本剰余金の一部)に移し替えられるようになり、株主還元(配当)のためなどのために減資しやすくなった。

   それでも、節税目的とみられるものには批判が強く、2015年のシャープの場合、1億円への減資計画を5億円に変更した。

   そうした、世論、評判といった「たが」が、コロナ禍で外れたかっこうだ。

新たな基準は「資本剰余金との合計額」、元々の中小企業が課税対象になる可能性も

   この問題を検討してきた地方財政審議会(総務相の諮問機関)は23年11月14日、外形標準課税に資本金以外の新たな指標を加えるように求める意見書をまとめ、資本金と資本剰余金の合計が一定額を超える場合は課税対象にすることが適当とした。

   自民党税制調査会の宮沢洋一会長も、そうした考えに同調する意向を表明しており、年末の2024年度税制改正大綱の決定に向け、具体的な金額などを詰める考えだ。

   行き過ぎにも見える節税への対策は当然とも思えるが、具体的な制度設計は難航も予想される。

   新たな基準を導入すれば、もともと資本剰余金を計上している中小企業が、新たに外形標準課税の対象になる可能性があるからだ。

   日本商工会議所は、9月に出した税制改正の提言で、赤字企業への増税につながるおそれがあるとして「適用拡大には断固反対」と訴えた。経団連も「中小企業などの地域経済・企業経営への影響にも留意が必要だ」と指摘している。

   宮沢・自民党税調会長は「節税したいがために(中小企業に)移ってきた企業だけを抽出する制度にできるかが一番大事だ」(日経新聞11月8日夕刊)と述べているが、具体的な線引きの金額や適用時期など、仕組み作りは容易ではない。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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