「私たちの気持ちを全然わかってない!」総スカンを食らった新米上司が、左遷先で見つけたマネジメントの本質とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「6」中編】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~部下の心を動かした『胸アツ』エピソード」では、実際にあった感動的な現場エピソードを取り上げ、「上司力(R)」を発揮する方法について解説していきます。

   今回の「エピソード6」では、<「私たちの気持ちを全然わかってない!」総スカンを食らった新米上司が、左遷先で見つけたマネジメントの本質とは?>というエピソードを取り上げます。

「仕事に身が入っていない」女性部下との出会い

   <「私たちの気持ちを全然わかってない!」総スカンを食らった新米上司が、左遷先で見つけたマネジメントの本質とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「6」前編】(前川孝雄)>の続きです。

   若くして課長に抜擢されたものの、未熟なマネジメントによって部下から総スカンを食らってしまったAさん。異動命令を受け、傷心のまま地方支所の課長に着任しました。

   Aさんは自分の至らなさを猛省し、今後はどうすれば部下を尊重できるか必死に考え、自らの行動を変えようと決心していました。

   新しく任されたチームには、部下が5人。二回りも年長の前任課長によると、仕事への意欲が見られない1人の女性部下Mさんがいる、ということでした。マネジメント業務の引継ぎの中では、彼女は頑固で文句が多く、仕事に身が入っていないと聞かされました。

   しかしAさんは、前任課長の話をうのみにしませんでした。自身の失敗から、上司のマネジメントで部下のモチベーションが大きく下がることを体感していたからです。Mさんの不満はいったい何なのか、やりたいことは何か、まずはじっくりと聴くことに努めようと決めました。

「縁もゆかりもないこの地域。こちらの部署の仕事も初心者です。みなさんの仕事もちゃんと理解しておきたい。まずは1人1時間程度、面談の時間をくれませんか」

   チームに着任早々、5人の部下たちに挨拶をし、1on1面談を提案し、一人ずつじっくり話を聞くことから始めました。

   今回は「自身の方針をいきなり打ち出すなど、やり方を押しつけることは絶対にしない」と心に決めていたAさん。

   その聴くことに徹した姿勢もあって、Mさん以外の部下は、自分の担当業務、チームの現状、これまでの経緯、自身の仕事に対する思い、人によってはプライベートな関心事なども話してくれ、一気に打ち解けていきました。

   順調に進んだ面談の最後の相手は、いよいよ気がかりなMさん。

「Mさん、はじめましてAです。いまの仕事内容について詳しく教えてくれる? もし気になることや改善すべきことがあれば、それも詳しく聴きたいんだ。それから、課長である私ができることがあれば何でも話してほしい」
「別に...」「前任の課長さんから聞けばいいじゃないですか」

   見るからに心を閉ざしたMさんは、何も話してくれませんでした。

「そっか。そうだよね。いきなり初対面の私に質問されても、どう答えたものか戸惑うよね。今日はここまでにしよう。ただ、来週また時間もらえないかな」
「え。来週もまた面談するんですか......わかりました」

   最初はそっけない返事ばかりでしたが、Aさんは根気よく、何度も何度も話を聴く場を設けました。すると、徐々に自己防衛に徹していたMさんも少しずつ打ち解け、業務について話してくれ始めました。ちょっとした雑談もできるように。

   しかし、Aさんは、まだ彼女が本音を話してくれていないと思い、面談を続けます。

「仕事を任せてほしい」本音を話してくれた部下を抜擢

   面談も5回目にもなろうとしていたある日、彼女はやっと自分の気持ちを打ち明けてくれたのです。

「もっと、仕事を任せてほしいんです」「アシスタントで終わりたくない。もっと自分の責任でお客さんに働きかけられるような仕事がしたいんです」

   これまでのMさんの担当は、後方支援業務。正確性が求められるものの、スポットライトが当たりにくい仕事でした。チームの業績ばかり気にするこれまでの上司の元で、期待も受けず放置され、感謝されることもなく、すっかり働く意欲を失っていたのでした。

「そうだったんだね。思いを聴かせてくれてありがとう。とても嬉しいよ」

   Aさんは、ちょうどチームで大きく仕掛けようとしていたプロジェクトの仕事を、Mさんに任せることにしたのです。

「実は、新しく立ち上げるマーケティングプロジェクト構想があって、誰に担当してもらおうか悩んでいたんだ。ちょうどよかった。Mさん、担当してくれないかな。もちろん課長の私がフォローするし、一緒にやるつもり。ただ、なにぶん前例のない仕事だし、担当者にお客さんへの強い思いがないと進められないからね」
「え。いきなりですか。うーん、無理です無理です。さすがに、今の私には力不足じゃないですか。やったこともないので不安です」

   いきなりのことに、Mさんは戸惑いを口にしました。

「びっくりするよね。でもMさん、お客さんと直接向き合う仕事がしたいんでしょ。仕事はやりたい人がやるのが一番なんだよ。やったことがない仕事で力不足なのは、誰だってそう。それに失敗したっていいじゃないか。失敗した責任を取るために課長の私がいるんだから」

   Mさんの目にどんどん光が宿っていきます。

「ありがとうございます。私、やります。やってみたいんです」

   Aさんの言葉は、彼女の背中を押しました。本人も心の奥ではその仕事に魅力を感じていて、一歩踏み出す覚悟を決めたのです。

プロジェクトは迷走し、「担当を替えろ」会社の指示まで

   新たな仕事のプロジェクトが始まると、最初はMさんの頑固さに周囲が振り回されることもあり、メンバーから不満の声が上がりました。

   本人も、慣れない仕事に悩むこと度々でした。なにより初めてのチャレンジでもありプロジェクトは迷走し、成果もなかなか出せませんでした。

「プロジェクト担当者のMさんの経験不足が、うまくいかない原因なんじゃないか。そもそも彼女はいつも頑固で仕事の態度が後ろ向きだというし、担当者を替えたらどうだ」

   管理職会議でも、懐疑的な声が多々...。とうとう決裁者である部門長から、課長のAさんに担当替えの指示が出ます。

「なかなか成果を出せなくてすみません。すべては、課長である私の責任です。今期の課長としての人事評価は最低ランクにしてください。ただ、担当のMさんだけは続けさせてほしいんです。お願いします。
Mさんは、決して後ろ向きなんていうことはありません。本人は頑張っているんです。勇気を出して、私に『やりたい』という気持ちを打ち明けてくれたんです。途中交代させることなく、やりきらせてあげたいんです」

   Aさんは、関係部署など周囲にも「もう少し彼女にやらせてほしい」と働きかけ続けます。Mさんの相談に乗ったりしては、時に弱音を吐きそうな彼女に「自分がやりたいといった仕事だろう。一緒に走り切ろうよ」と言い続けました。

   試行錯誤が続く日々でしたが、半年も経つ頃、しだいに周囲からMさんへの文句が出ることはなくなっていきました。むしろ、彼女独自の頑固さは仕事への強いこだわりとなり、決して投げ出そうとしない姿勢に誰もが感心するようになっていました。

   それとともに、着実に成果も上げるようになっていったのです。Aさんが管理職の会議でプロジェクトの報告をすると、周りからも前向きな声が増えるようになっていきました。

   ある管理職会議が終わったあと、会議室を出がけに部門長がAさんにこう声を掛けました。

「あのマーケティングプロジェクト、あきらめずに続けてよかったな。あの担当のMさん、彼女のこだわりの強さはすばらしいね」
「ありがとうございます。担当替えをとどまっていただいた部門長のおかげさまです」

   Aさんはこう受け答えしながら、内心では「どの口が言うかな。頑固だから替えろと言っていたのに」と苦笑いしました。

   Aさんは、その後2年と経ずに本部に異動になりました。いみじくも、オシボリを投げつけられて左遷されたキャリアから再起を果たしたかたちです。

   ところが...しばらくすると、Aさんのもとに、ある思わぬ知らせが入りました。

   この続きは<「私たちの気持ちを全然わかってない!」総スカンを食らった新米上司が、左遷先で見つけたマネジメントの本質とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「6」後編】>で取り上げていきます。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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