「仕事を任せてほしい」本音を話してくれた部下を抜擢
面談も5回目にもなろうとしていたある日、彼女はやっと自分の気持ちを打ち明けてくれたのです。
「もっと、仕事を任せてほしいんです」「アシスタントで終わりたくない。もっと自分の責任でお客さんに働きかけられるような仕事がしたいんです」
これまでのMさんの担当は、後方支援業務。正確性が求められるものの、スポットライトが当たりにくい仕事でした。チームの業績ばかり気にするこれまでの上司の元で、期待も受けず放置され、感謝されることもなく、すっかり働く意欲を失っていたのでした。
「そうだったんだね。思いを聴かせてくれてありがとう。とても嬉しいよ」
Aさんは、ちょうどチームで大きく仕掛けようとしていたプロジェクトの仕事を、Mさんに任せることにしたのです。
「実は、新しく立ち上げるマーケティングプロジェクト構想があって、誰に担当してもらおうか悩んでいたんだ。ちょうどよかった。Mさん、担当してくれないかな。もちろん課長の私がフォローするし、一緒にやるつもり。ただ、なにぶん前例のない仕事だし、担当者にお客さんへの強い思いがないと進められないからね」
「え。いきなりですか。うーん、無理です無理です。さすがに、今の私には力不足じゃないですか。やったこともないので不安です」
いきなりのことに、Mさんは戸惑いを口にしました。
「びっくりするよね。でもMさん、お客さんと直接向き合う仕事がしたいんでしょ。仕事はやりたい人がやるのが一番なんだよ。やったことがない仕事で力不足なのは、誰だってそう。それに失敗したっていいじゃないか。失敗した責任を取るために課長の私がいるんだから」
Mさんの目にどんどん光が宿っていきます。
「ありがとうございます。私、やります。やってみたいんです」
Aさんの言葉は、彼女の背中を押しました。本人も心の奥ではその仕事に魅力を感じていて、一歩踏み出す覚悟を決めたのです。