マツダのロータリーエンジン搭載車の累計生産台数が200万台に達した。2023年10月30日に発表されたこのニュースを聞いて、一瞬「?」と違和感を覚えた人は多いだろう。
どうしてマツダは今ごろロータリーエンジンの累計生産台数を発表したのか、と。
クルマに詳しい読者なら、マツダが2012年6月に最後のロータリーエンジン搭載車となる「RX-8」の生産を終了したことを知っているだろう。
生産台数が多かった「RX-7」や「RX-8」のオーナー向けに代替のロータリーエンジンを少量生産するケースはあったかもしれないが、基本的に量産はストップしていたはずだ。
それなのに、累計生産台数が増えるというのはどういうことか。
マツダが胸を張る「『飽くなき挑戦』を象徴する特別な存在」とは
その答えは、マツダが2023年6月に「MX-30ロータリーEV」の生産を開始したからだ。MX-30ロータリーEVは、発電用にロータリーエンジンを用い、モーターで走行するシリーズ式プラグインハイブリッドカーだ。
マツダはMX-30ロータリーEVの予約販売を2023年9月に開始し、11月から納車を始めている。そのためのロータリーエンジンの生産を6月から開始しており、累計生産台数の上積みに貢献したというわけだ。
とはいえ、MX-30ロータリーEV向けのロータリーエンジンの生産台数はおそらく、まだ数百台だろう。つまり、RX-8が生産を終了した2012年6月時点で、累計生産台数は199万9000台を超えていたはずだ。
マツダは今回の200万台達成について「マツダの歴史において、『飽くなき挑戦』を象徴する特別な存在であり、世界中のお客さまに愛されてきたロータリーエンジンの生産に再び大きな火が灯りました。購入いただいたお客さまやファンの方々など皆さまに心から感謝申し上げます」とコメントしている。
軽量コンパクトで振動少...だが、燃費の悪さからライバル社は開発ストップ
ピストンの往復運動ではなく、三角形のおにぎり型のローターが回転することで動力を生むロータリーエンジンは、マツダが1967年に「コスモスポーツ」に搭載して発売した。
海外では、現在のアウディの前身となる西ドイツ(当時)のNSUが1964年に世界初のロータリーエンジンの乗用車を発売していた。マツダはNSUなどから技術供与を受け、ロータリーエンジンの実用化に成功した。
当時、ロータリーエンジンは軽量・コンパクトで振動が少なく、ピストンを用いたレシプロエンジンを凌駕すると見られていた。
トヨタ自動車や日産自動車などライバルも研究開発を進めたが、燃費が悪かったことから1973年の石油ショックをきっかけに開発はストップ。結果的にマツダは世界で唯一、ロータリーエンジンを量産する稀有なメーカーとなった。
「似たような少数派」スバルの水平対向エンジン車は、1500万台以上の累計生産台数
似たようなケースとしては、SUBARU(スバル)の水平対向エンジンが挙げられる。こちらもコンパクトで振動が少ないという点では、ロータリーエンジンに似たメリットがある。
かつて水平対向エンジンは国内ではトヨタ、海外ではフォルクスワーゲン、シトロエン、アルファロメオ、フェラーリなどが生産していた。
ところが、部品点数の多さなど生産コストがかさむことから、乗用車ではポルシェとスバルだけになってしまった。燃費の悪さもデメリットだろう。
スバルの水平対向エンジンは燃費の悪さで知られる。排気管の配置など、エンジンの温度管理が直列エンジンに比べて難しいことが要因らしい。
もっとも、ポルシェの水平対向エンジンの燃費はスポーツカーとしては決して悪くなく、スバルだけの要因との指摘もある。
スバルの水平対向エンジンの累計生産台数は、2015年に1500万台に達した。その後、スバルは累計生産台数を発表していないが、2021年には同社が得意とするAWD(全輪=4輪駆動車)の累計生産台数が2000万台に達したと発表しており、水平対向エンジンも2000万台を超えているのは確実だろう。
スバルの水平対向エンジンは、1966年の「スバル1000」から現在まで生産が続いている。
2012年6月のRX-8の生産終了から11年のブランクがあったマツダとは単純比較できないが、ロータリーエンジンの累計生産台数は、同じく少数派のスバルの水平対向エンジンの10分の1に過ぎない。
いずれにしてもロータリーエンジンは希少価値で、今後も大量生産が続くとは考えにくい。それだけに、マツダファンにとってロータリーエンジンの生産再開と200万台達成は大きなニュースに違いない。(ジャーナリスト 岩城諒)