高級食材として知られる「フォアグラ」を人工的に作った「培養フォアグラ」が話題だ。
すでに技術は完成しており、近い将来、100グラム300円での提供を目指しているのは、バイオ系スタートアップ企業・インテグリカルチャーだ。
同社の代表取締役CEOの羽生雄毅(はにゅう・ゆうき)氏へのインタビュー<高級食材「フォアグラ」...100グラム300円で量産される世界がやってくる、のか!?/「培養フォアグラ」開発企業「インテグリカルチャー」代表取締役CEO・羽生雄毅さん>に引き続き、J-CAST会社ウォッチ編集部は、同社が目指している未来像に迫った。
「細胞性食品などを作る技術のパッケージを提供する」
――それにしてもなぜ、「培養フォアグラ」に注目したのでしょうか。
羽生氏 「技術デモンストレーション」の一環という意味合いがあります。将来的には、一般のレストランで提供される状況を作り出すことを想定していますので、そこまで含めると「社会実装デモンストレーション」といえるでしょうか。
実は、こうしたデモンストレーションを通じて、細胞性食品などを作る技術のパッケージを提供するのが弊社の事業モデルです。なので、弊社の技術を使って、お客様が何を作るかは自由なんです。
――「パッケージ」とは、どういう意味ですか?
羽生氏 たとえば、さきほどお話しした「基礎培地」や「血清成分」を詰め合わせセットにして、これらをまとめて提供することで「細胞培養をやりたいが、どうしていいか分からない」という企業や国に対し、「これを導入すればできますよ」というセットを提供するということです。もちろん、セットを運用するサービスも含めています。
――細胞培養に関連する一連のフォーマットを販売するということですね。
羽生氏 そうです。なお、すでに大企業から引き合いの声があるほか、大阪にある個人経営のレストランにパッケージを提供したという実績もあります。弊社の技術は中小企業でも導入可能なものだ、ということがご理解いただけるかと思います。
――そうなんですね!
羽生氏 なので、このパッケージは地方創生にも使えるかなと考えています。たとえばですが、その業界で最大手ではない食品会社が地方にあったとして、弊社の技術を取り入れることで新たな地方名産品を開発する、といったことも可能になるのではないかと思います。よろしければ、ぜひご活用ください!
化粧品には「ストーリーを作れる」という情緒的な効果が存在する
――御社は「細胞培養」の技術を活用して、化粧品販売もなさっていますが、こちらについてもお教えください。
羽生氏 培養上清液を使った商品を展開しています。いわゆる、「幹細胞コスメ」ですね。幹細胞というのは、さまざまな細胞のもとになる細胞のことです。
――幹細胞でコスメとなると、アンチエイジング的な?
羽生氏 そうですね。弊社では、いわゆる「アンチエイジング化粧品」の原材料を提供しています。なお、化粧品に活用していただけると、「ストーリーを作れる」という情緒的なメリットを打ち出しやすいと思います。これを利用することで、ブランディングがしやすくなるでしょう。たとえば、「細胞培養」による環境負荷の軽減などは、お客様へのアピールになると思います。
――いいですね!
羽生氏 あとは、幹細胞からはさまざまな細胞を作れるので、「こういう効果を持つ原材料が欲しいな」と思うと、実際にそれを作れてしまうというのも弊社の強みです。余談ですが、幹細胞コスメは食品よりも重量単価が高くできるので、弊社としても事業の可能性の幅が広がります。
日本は研究費の出し方が野暮ったい? 資金調達はとにかく大変...
――話は変わって、月並みな質問ですが、こうした新しい分野で起業されているだけに、資金調達は大変でしたか?
羽生氏 大変です......。そればかりに追いかけられている感は正直あります。これは弊社を含めスタートアップ企業すべてに言えることですが、海外で得られる資金は日本国内で得られる資金に比べてケタ違いに大きいので......。
――やはり、海外の方が手厚いんですね。
羽生氏 日本国内では、「言い訳ができるお金」は出やすかったりします。「この研究はSDGsに資する」となれば、「海外ではこんなに研究費が使われているのであれば」とお金は出やすいんですが、アメリカは対照的ですよ。投資の動機として「俺が目指す世界を実現させるために、この資金を使ってくれ!」といった方がたくさんいるんです。
――そんな方がいるんですか! 何か、日本って野暮ったいですね!
羽生氏 そうなんですよね......。ただ、海外は今、転換期に来ています。海外は研究に対する投資がされやすいのは今お話ししたとおりですが、それゆえに、実現性が必ずしも高くない研究にも大量の資金が投じられていました。で、その後、頓挫しそうになっている例も見受けられます。たとえば、とりあえず試作品としておいしそうな培養肉はできたけれど、それを大量生産できるかという点がなかなかクリアできず、事業化がストップしてしまっている例があるんです。
――投資への判断は、やはり難しいですね。
羽生氏 なので、培養肉のような、世の中を大きく変え得る可能性がある一方で技術開発に莫大な資金が必要な新規事業を、果たしてスタートアップモデルでやるべきなのかといった声も上がり始めています。
中二病するなら宇宙規模で!?
――それでは最後に、御社の今後の展望をお聞かせください。
羽生氏 まずは、企業として存続していくことです。そのためには、化粧品の原材料の生産をはじめとする「細胞培養」の製品事業をまずは固めていきたいと思っています。それから、弊社の技術による、細胞培養に関連するフォーマットをいち早くお客様に提供したい。このフォーマットが事業として回るようにしていくことです。
現時点では、化粧品の原材料の生産事業はあと1、2年で「出せる」というレベルと言っていいでしょう。特に、同事業の一部は発売に向けての具体的な研究開発が進んでいます。
――かなり手ごたえを感じられているのですね。御社は培養フォアグラにはじまって化粧品といった具合に、アイデアの幅が広いですが、どうやって思いつくんでしょうか。
羽生氏 私は2次元系をはじめとする創作物が大好きで、それらの世界観や設定交渉に魅了されてきました(笑)。なので、そういうフォーマットを実現させていく方向でアイデアを考えているのかもしれません。座右の銘と言えるかどうかわかりませんが、「中二病するなら宇宙規模で」という思いで、わくわくすることに取り組んでいます!
――素晴らしいですね! 楽しいお話、ありがとうございました。
(聞き手・構成/J-CAST会社ウォッチ編集部 坂下朋永)
【プロフィール】
羽生雄毅(はにゅう・ゆうき)
インテグリカルチャー株式会社
代表取締役CEO
2010年、University of Oxford Ph.D (化学)取得。東北大学 PD研究員、東芝研究開発センター システム技術ラボラトリーを経て、2015年10月にインテグリカルチャーを共同創業。