2025年4月の開幕に向け、さまざまな問題が噴出している大阪・関西万博。2023年11月上旬には会場建設費を500億円積み増して最大2350億円とする計画について、資金を拠出する国、大阪府・市、経済界の3者が受け入れる意向を表明した。
そこまでの過程を振り返ると、万博に最も熱心だったはずの大阪府・市に生じている変化が浮かび上がる。
吉村大阪府知事も万博協会・副会長の1人、業務執行の監視などに関わる立場のはずが?
「説明は不十分」。2023年10月20日、会場建設費の増額について報告を受けた大阪府の吉村洋文知事は記者団の取材に応じ、金額を見積もった2025年日本国際博覧会協会(万博協会)を厳しく批判して見せた。
会場建設費は、シンボルとなる巨大な円形の木造建造物や迎賓館、催事場、一部のパビリオンの整備に充てる費用だ。
開催が決定した2018年には1250億円と想定していたが、2020年に施設の設計変更や、暑さ対策の拡充のためとして1850億円に増額。さらに物価上昇を背景に、資材価格や人件費が上昇しており、2023年8月に国が万博協会に対して精査を求めていた。
万博協会は公益社団法人であり、会長(代表理事)は経団連会長の十倉雅和氏が就き、実務を取り仕切る事務総長(代表理事)は経済産業省で事務方ナンバー2の経済産業審議官などを歴任した石毛博行氏が務めている。副会長(理事)には政財界の代表者ら13人が就いている。政官財「オールジャパン」のキャストといえる。
何を隠そう、吉村知事は万博協会の副会長の1人である。大阪市の横山英幸市長も同じだ。
公益法人の理事は、法人の業務上の意思決定に参画し、代表理事らの業務執行を監視する役割を担っている。にもかかわらず、大阪府知事として会場建設費増額の報告を受けた吉村氏は、あたかも初めて聞いたかのような態度を示した。
そもそも大阪府は、事務総長の下で実務を担う5人の副事務総長の1人に元副知事を送り込んでもいる。万博協会の内部で検討している状況を大阪府が逐一、把握していると考えるのが至当だ。
吉村知事は増額について報告を受けた後の10月27日、万博協会の副事務総長を大阪府・市の会議に呼び、積算根拠の詳しい説明を求める質問を突き付けた。
その回答を踏まえて、大阪府・市が「やむを得ない」と増額分の負担を受け入れると表明したのは11月1日。一連の流れから見て取れるのは、本来は「身内」である万博協会をまるで悪者扱いするような大阪府・市の態度だ。
会場費増額は、大阪維新の会の「身を切る改革」の主張と矛盾感... 入場券収入で賄う運営費への懸念も根強く
こうした「茶番」のような動きの背景には何があるのか。
地元記者は「維新の手柄のはずだった万博が、逆に維新の存在意義を揺るがしかねなくなったのではないか」と指摘する。
万博の誘致は大阪の経済活性化を狙った大阪維新の会がぶち上げ、維新と関係が良好だった当時の安倍晋三首相が後押しして2018年に決定した。
しかし、2020年に会場建設費を最初に増額した後、新型コロナウイルス禍からの経済回復に伴う世界的な物価上昇が本格化。万博協会や行政が発注するパビリオンの中には、想定した価格では安すぎて入札が成立せず、パビリオンの設計を簡略化するケースも起きている。
会場建設費も1850億円では足りなくなって増額に至ったわけが、物価上昇で庶民の懐事情も厳しくなっている昨今、「身を切る改革」を旗印に掲げる維新にとって、言行不一致と批判されかねない。
万博を成功させるために会場建設費の増額は不可避だが、公費による負担が増えれば自らの主張との矛盾が浮き上がってしまうのだ。
それでも万博が成功すれば、維新は成果を誇れるかもしれない。
ところが、「万博の華」とも称される海外パビリオンは建設の遅れが指摘されている。主に入場券収入で賄う万博の運営費も「足りなくなるのではないか」(関西財界関係者)といった懸念が根強い。
開催期間を延期できるデッドラインは過ぎており、開幕しても悲惨な状態ならば万博推進派に対する批判が高まるのは必至だ。
会場建設費の増額をめぐって、吉村知事が万博協会と一線を画そうとするのには、「失敗の可能性もにらんで、今から予防線を張っているのでは」との見方が、関係者にくすぶる。
開幕の500日前となる2023年11月30日には前売り入場券の販売が始まる。多額の公費を投じる国家イベントはどこに向かうのか。(ジャーナリスト 白井俊郎)