岸田文雄政権は2023年11月2日、総額17兆円台前半の総合経済対策を決定した。
首相は同日夕に記者会見に臨み、賃上げを伴う経済の好循環を実現し、デフレ状態からの脱却を確実にすると強調。「この政権は何よりも物価高対策、経済対策を重視している」と胸を張ってみせた。
だが、あまりの評判の悪さに、政府・与党内でもため息ばかりが聞こえる異常事態になっている。
減税策ばかりに話題が集中、それ以外の対策の中身が注目されない コロナ明け、歳出構造を平時に戻していくはずだったのに...
「懸念されていたことが現実になってしまった」
こう吐き捨てたのは霞が関の現役官僚だ。
総合経済対策は「物価高対策」「持続的な賃上げ」「供給力強化・投資促進」「人口減少対策」「安全・安心対策」の5本柱を掲げる。具体的に、ガソリンや電気料金の価格抑制策の継続や、賃上げを促す企業税制、半導体など重要産業の支援なども盛り込んだ。
しかし記者会見では、所得税などの減税策の是非に質問が集中。岸田氏はその「釈明」に多くの時間を費やした。
減税策ばかりに話題が集中し、それ以外の対策の中身にはほとんど注目が集まらない――これが、先の現役官僚が語る「懸念」だ。
実は、今回の経済対策は歴代政権の中でも、かなりの「大型」となっている。秋に経済対策を打ち出すのはもはや政府にとって「恒例行事」と言える。臨時国会で対策の裏付けとなる補正予算を成立させるまでがセットになっている。
思えば、新型コロナウイルス禍前まで、補正予算の規模は4兆円前後がせいぜいだった。
しかし、コロナの「5類移行」――つまり、普通の感染症圧内になって初の補正予算となった今回の対策に伴う補正規模は、一般会計分だけで13.1兆円にのぼっている。
「大規模な補正予算を講じてきたコロナ禍への対応が一段落した以上、歳出構造を平時に戻していく方針は堅持する」
岸田首相は2日の会見でこう明言したが、これが「真っ赤な嘘」であることは補正規模を見ても明らかだ。
しかも13.1兆円には所得税、住民税の減税分は含まれていない。先進国で最悪の財政事情を抱える日本にとって、まさに将来をかけた大盤振る舞いと言っていい。
減税策を含めた経済対策に批判一色の報道 支持率回復の思惑から大きく外れ...
経済対策が大型化した背景には、支持率急落にさらされる官邸の焦りがある。反転攻勢のきっかけが見いだせない中、官邸が経済対策にすがったのだった。
毎年の恒例行事化してはいるが、足元の課題を解決する「カンフル剤」を示すことは政権にとってプラスに働く。
「とにかく大型に」という官邸の要求に応じようと、霞が関は駆けずりまわった。各省庁が24年度当初予算用に準備していた事業の一部を前倒しし、「宇宙戦略基金」など基金の増設などで対策規模を「水増し」し続けた。
しかし、結果は当初の思惑から大きく外れた。メディアの報道は減税策を含めた経済対策の批判一色に染まり、野党だけでなく、与党内からも不満が渦巻いている。
「計算違いどころの話ではない。もはや悲劇だ」
政権に近い関係者からは、こんな嘆き節も聞こえてくる。
臨時国会では来週以降、経済対策に関する議論がさらに加熱するとみられる。
「経済の岸田」のイメージづくりにものの見事に失敗した岸田政権にとって、イバラの道となりそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)