ある新入社員が「上司との飲みニケーション」を3か月実行して、気づいたこととは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「5」後編】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~部下の心を動かした『胸アツ』エピソード」では、実際にあった感動的な現場エピソードを取り上げ、「上司力(R)」を発揮する方法について解説していきます。

   今回の「エピソード5」では、<ある新入社員が「上司との飲みニケーション」を3か月実行して、気づいたこととは?>というエピソードを取り上げます。

会社も社会も「人と人とのつながり」でできている。自分が役立つことが、このうえない喜び

   <ある新入社員が「上司との飲みニケーション」を3か月実行して、気づいたこととは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「5」前編】(前川孝雄)>の続きです。

   前編に引き続き、20代の女性読者から届いた手紙の内容を紹介していきます。

   彼女は、自分自身の変化について、次のように自己分析を綴っています。

2年前、就職活動をしていた時には考えもしない働き方を、今私はしていると思います。
2年前、前川さんの本に出会っていたら、おそらく信用できずに、途中で読むのをやめていたと思います。
2年前私は、おそらく『一人で生きよう』としていたのです。

『人に流されていてはいけない』とか、その延長線上で『会社とは自立していたい』とか
そういうことを繰り返すうちに、そうでないと社会で戦っていけない気がしていました。

今になってみれば、私は当時自信が無く、バリアを張り巡らせていたのだと思います。
でも今は、人とのつながりがビジネスを創るのだと、強く思っています。
会社も社会も、人と人とのつながりでできていると実感できるからです。
その中で自分が役にたっていけることは、このうえない喜びです。
それが仕事だと思います。

今、働いていてとても幸せです

別に、勉強会やセミナーに行くことは悪いことではありません。
今不可能な夢を持つことも、良いことだと思います。

けれど、それは目の前にいる人や、目の前にあることをなおざなりにして実現できるものではないと思います。
自分に出来ることをきちんと見つめながら、人に感謝して働く、それってとても素晴らしいことだと気づきました。

今、働いていてとても幸せです。
前川さんの本の影響が大いにあると思います。
働き始めの若手には、とてもためになる本だと思い、友人たちに薦めておきました。

本当にどうもありがとうございます!
感謝、感謝です!

   さて、いかがでしたでしょうか。

   私には、彼女が一つひとつ丁寧につづってくれた、実感のこもった気づきの言葉が胸に響きました。そして一人の若者が着実に、前向きに変わったこと、その結果、一組の上司と部下の確かな絆が生まれたことに感動しました。

   以下、この勇気ある1人の若者のチャレンジから上司として学び、留意すべきポイントを、3点挙げておきましょう。

若手部下との相互理解の場を、意識して設けること

   この女性の場合は、書籍のタイトルに実直に「飲みにケーション」の実践から始め、結果、上司との距離を縮め、自ら働きがいを見出すことにつなげることができました。

   しかし、言うまでもなくこれはごく稀な例です。若手部下側から上司に働きかけ、気軽な関係を築くことなど、簡単にできることではありません。世代間ギャップの大きい職場ならなおさらです。

   そこで、若手が上司や先輩との日頃のコミュニケーションや人間関係に悩んでいるようであれば、まずは上司の側から関わりの機会をつくることが大切です。

   私は今の時代、部下との「飲みにケーション」など時間外のコミュニケーションを安直に勧めるつもりはありません。上司のみなさんに心がけてほしいのは、業務時間内に、フランクな相互理解のためのインフォーマル・コミュニケーションの場づくりを意図的に行うことです。

   その具体的な方法をここで詳述するスペースはありませんが、すでに過去の連載でも取り上げています(参照:「大丈夫です」。心配して尋ねても、悩みを話そうとしない部下...どう関わる?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE16】)。

   会議前に行う「チェックイン」や、上司から進んで部下との対話に出かける「職場内ブラブラ散歩」など、上司の姿勢と工夫次第で実行できるアイデアやヒントが得られるでしょう。関心のある方はぜひ参照してください。

   上司や先輩との対話になかなか一歩を踏み出せない部下にも、手紙をくれた彼女のような気づきや働く喜びが得られるように、上司から率先して相互理解を深め、いつでも必要なコミュニケーションが取れる関係を築いてください。

上司が自分自身の言葉で、しっかりと思いを伝えること

   上司の側から部下に対し、進んで対話をすべき理由は、他にもあります。

   時代が大きく動き、企業の内外環境が激変しているとはいえ、現在の職場と仕事の進め方においては上司に一日の長があり、しっかりと伝えるべき知恵や情報があるからです。

   働くうえで、組織とはいったい何か。メンバー1人ひとりが、お互いにどのように役割を果たし合うべきか。職場での円滑な人間関係やチームワークのためには、どのような心がけが大切か。いかに行動すれば、自身の働きがいや成長につながるのか...。

   上司が先輩ビジネスパーソンとして若手世代に伝えるべきことは、少なくないはずです。一方的な押しつけにならぬよう配慮し、若手部下の価値観や立場を尊重しつつも、働く上での知恵や思いを上司自身の言葉でしっかりと伝えていくことが大切です。

   上司による傾聴の大切さが喧伝される時代ですが、いかに傾聴スキルを学び活用できたとて、上司自身の人柄や価値観を知らないなかで、部下は安心して本音を話すことはできません。上司は自己開示の大切さも認識しておくべきです。

   その際気を付けたいのは、部下に伝える内容が上司自身の「武勇伝」にならないこと。かつての上司の成功体験や自慢話ばかりを聞かされては、部下との相互理解やモチベーション向上には逆効果です。過去からの学びという意味では、むしろ「失敗談」のほうが求められます。

   何よりも昔話ではなく、若手世代と共にこれからの職場と仕事をいかに創っていくか。将来展望と次世代への期待に基づいた、前向きな対話を心がけましょう。

部下の働きがいと成長を願う心を、基礎に置くこと

   これはより基本的なことですが、部下との相互理解を促進する行動の基礎には、部下の働きがいと成長を願う心を置くことです。

   若手女性の手紙には、上司や先輩から受けた具体的な言動は書かれていません。それでも、彼女がつづった言葉――「仕事は厚意で与えられていた」「私に任せるリスクを承知で仕事を与えてくれていた」「自分に出来ることをきちんと見つめながら、人に感謝して働く、それってとても素晴らしい」「今、働いていてとても幸せ」といった内容からは、上司や先輩から受けた配慮への信頼感醸成が感じられます。

   部下との深いコミュニケーションが大切な真の理由は、決して部下を意のままに動かすためではありません。部下が上司や同僚を信頼し、職場で安心してチャレンジできる環境を整えて、自分の仕事に邁進し、自ら働きがいをつかみ取れるように支援するため。

   最後に強調しておきますが、部下の側から上司に配慮すべきとか、忖度すべきと解釈するのは誤りです。着目すべきは、上司が部下1人ひとりを交代のきく不特定多数の人ではなく、かけがえのない1人の人として大切に思い、親身に向き合う姿勢をみせたこと。だからこそ、信頼関係が深まったのです。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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