ある新入社員が「上司との飲みニケーション」を3か月実行して、気づいたこととは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「5」前編】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~部下の心を動かした『胸アツ』エピソード」では、実際にあった感動的な現場エピソードを取り上げ、「上司力(R)」を発揮する方法について解説していきます。

   今回の「エピソード5」では、<ある新入社員が「上司との飲みニケーション」を3か月実行して、気づいたこととは?>というエピソードを取り上げます。

若手世代とのコミュニケーションに悩む上司たち

   働き方改革が進み、残業は規制され休暇は取りやすくなり、3年にも及んだコロナ禍の影響もありリモートワークも普及しました。ワークライフバランスの重視や、社員のプライバシーへの配慮、ハラスメント防止などの風潮からは望ましい変化のはずです。

   しかし悩ましい副作用が顕在化しています。それは、上司と部下のコミュニケーションの希薄化です。

   個々人にとって柔軟で働きやすい環境が整備されてきた一方で、職場の飲みニケーションは日常の風景ではなくなりました。生産性向上が強く求められるなかで、職場での何気ない雑談は激減。上司と部下のやりとりは仕事上必要最小限に終始するケースも珍しくなくなっています。

   売り手市場傾向が強まり早期離職が増えていることもあり、特にZ世代の若手などとのコミュニケーション不足を課題と感じる上司が増えつつあります。私の会社が開講する上司力(R)研修でも、世代間ギャップに悩んでいる上司が目立ちます。

   人事部から求められる1on1ミーティングを実施するも、「何をどう話せばよいかわからない」「結局業務の話で終わった」「とはいえ、飲みに誘う時代でもないし、ハラスメントと思われたら面倒」という本音も聞こえてきます。

20代読者から届いた1通の手紙

   私は以前、『勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい』(光文社新書)という、かなり刺激的なタイトルの本を出したことがあります。20代の若手ビジネスパーソン向けに、2010年に初版を発行しました。

   もしかしたら、いまならタイトルだけでたちまち大炎上してしまうかもしれません(実は、当時も「上司と飲んでも時間の無駄」「飲み会に行くより勉強した方が成長できるでしょう」という正論があふれるなど、かなりバズりましたが...)。

   ただ、同書の意図は、決して若手世代に「単に上司と飲むこと」を励行するのが主眼ではありませんでした。

   当時は、資格やスキルを身につけるため、終業後のみならず、朝活も流行っていました。もちろん勉強会で「自分磨き」することはよいことです。リスキリングが求められる現在なら、奨励されるべき行動です。

   しかし、入社間もない新入社員が職場に馴染み、現場仕事を覚える前に、社外のセミナーや勉強会に熱心に出向くことはアンバランスです。この危機感から、「社外の勉強会」と「社内の先輩・上司からの学び」を対比させ、後者にも意義があることを説いたものでした。

   先輩や上司などとの相互理解はもちろんのこと、忙しい日中に聞けなかった疑問を解消したり、仕事の目的や背景に気づけたりするフランクな対話の場は、若手社員の成長のためには欠かせないものです。

   だから、もちろんそうした場は、飲み会である必要はありません。むしろ業務時間内に設定するのが上司の責務であり、1on1ミーティングが求められる所以でもあります。

   しかし、40~50代の上司層は自身がそうした育てられ方をしてこなかった人も多く、先述のように苦慮しがちです。であるならば、部下側から上司が慣れ親しんだ「対話の場」を提案すれば、結果自身の成長につながるはずです。

   今回紹介するのは、この本を手に取ってくれた20代女性から届いた1通の手紙です。そこには、タイトルに反発する若者が多いなか、同書の真意を真正面から受け止め、著者の期待を上回るほどの「コミュニケーション実験」を職場で展開してくれた様子がつづられていました。

   上司から部下を飲みに誘うのははばかられる時代だからこそ、部下から上司を飲みに誘う「逆張り」の発想は上司から喜ばれることも多いものです。手紙をくれた彼女も、最初は半信半疑だったようです。ところが、上司との相互理解の大切さに目覚め、成長への大きな糧にしてくれたことを、とても嬉しく思いました。

   若者の感受性をそのまま理解してほしいため、匿名性に配慮したうえで、手紙の本文をほぼ原形のままご紹介します。

実際に「勉強会より上司と飲みに行く」ようにしてみたら...

この本を読んで、実際に『勉強会に行く暇があるなら、上司と飲みに行く』生活をしてみました。3ヶ月間、みっちりそういうふうにして暮らしました。

すると、まず小金が貯まりました。
勉強会にはお金を払わなくてはいけないけれど、上司と飲んだ時は上司が払ってくれたからです。

なんだか私は職場になじみました。可愛がられるようになりました。
仕事が増えても、苦にならなくなりました。
それに、きっと仕事が上手になりました。

けれど、一体私の何が変わったのだ?
と思ってまとめてみると、次のようなことに気がつきました。

仕事は、厚意で与えられていた

・仕事は、厚意で与えられていた。厚意で与えられる以外に、新人の私が役に立てる場などなかったのだ。
・先輩方は私に任せるリスクを承知で私に仕事を与えてくださっていた。
・『自分に出来ることからやらせていただく』という仕事の仕方は、何だか楽しい。

・仕事は、いわゆる頭が良い人が出来るわけではない。
・一緒に働く人間が好きな人は、楽しそうだ。
・楽しそうな人は、仕事を愛している。

・楽しそうな人は、仕事を選ばない。
・自分が出来ることなら何でも喜んでやる。
・仕事を選ばない人が出世してゆく。
・仕事を選ばない人は、なんでもやるわりには、目標がブレない。

・夢は常に現実の中にある。現実に与えられた、目の前の仕事をこなせないと、なぜか夢が遠ざかる。
・仕事がはかどると、なぜか夢が膨らむ。
・しかも現実的な方向に膨らむ。

意固地になっていた「自己実現の夢」は忘れたのに...仕事が楽しくなった

・仕事が楽しくて、仕事で目標が出来ると、自分が意固地になってしがみついていた『自己実現の夢』が何だったのか、思い出せなくなる。
・私は学生時代からの『夢』が何だったか、すっかり忘れた。
・しかし今、そのせいで自分を見失ったとも思わないし、仕事が楽しい。
・悩みや困難の大きさは以前と変わらないが、希望が持てる。(乗り越える勇気が出る。)

・仕事がはかどると、人が好きになる。
・上司のことはちょっと嫌いだったが、今は大好きなおじさんの一人だ。
・上司は自分のことを『おじさん』と呼ぶようになり、私を『○○(苗字)さん』ではなく『☆☆(名前)ちゃん』と呼ぶようになった(ただし、宴会時のみ)。

・仕事が『やらなきゃ』から『やりたい!』に変わった。
・会議で眠くなくなった。
・プライベートも充実した。
・年下から好かれるようになった。

   彼女はこうした自分の変化について、さらに自己分析を綴っていきます。

   この続きは<ある新入社員が「上司との飲みニケーション」を3か月実行して、気づいたこととは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「5」後編】>で紹介していきます。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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