20代読者から届いた1通の手紙
私は以前、『勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい』(光文社新書)という、かなり刺激的なタイトルの本を出したことがあります。20代の若手ビジネスパーソン向けに、2010年に初版を発行しました。
もしかしたら、いまならタイトルだけでたちまち大炎上してしまうかもしれません(実は、当時も「上司と飲んでも時間の無駄」「飲み会に行くより勉強した方が成長できるでしょう」という正論があふれるなど、かなりバズりましたが...)。
ただ、同書の意図は、決して若手世代に「単に上司と飲むこと」を励行するのが主眼ではありませんでした。
当時は、資格やスキルを身につけるため、終業後のみならず、朝活も流行っていました。もちろん勉強会で「自分磨き」することはよいことです。リスキリングが求められる現在なら、奨励されるべき行動です。
しかし、入社間もない新入社員が職場に馴染み、現場仕事を覚える前に、社外のセミナーや勉強会に熱心に出向くことはアンバランスです。この危機感から、「社外の勉強会」と「社内の先輩・上司からの学び」を対比させ、後者にも意義があることを説いたものでした。
先輩や上司などとの相互理解はもちろんのこと、忙しい日中に聞けなかった疑問を解消したり、仕事の目的や背景に気づけたりするフランクな対話の場は、若手社員の成長のためには欠かせないものです。
だから、もちろんそうした場は、飲み会である必要はありません。むしろ業務時間内に設定するのが上司の責務であり、1on1ミーティングが求められる所以でもあります。
しかし、40~50代の上司層は自身がそうした育てられ方をしてこなかった人も多く、先述のように苦慮しがちです。であるならば、部下側から上司が慣れ親しんだ「対話の場」を提案すれば、結果自身の成長につながるはずです。
今回紹介するのは、この本を手に取ってくれた20代女性から届いた1通の手紙です。そこには、タイトルに反発する若者が多いなか、同書の真意を真正面から受け止め、著者の期待を上回るほどの「コミュニケーション実験」を職場で展開してくれた様子がつづられていました。
上司から部下を飲みに誘うのははばかられる時代だからこそ、部下から上司を飲みに誘う「逆張り」の発想は上司から喜ばれることも多いものです。手紙をくれた彼女も、最初は半信半疑だったようです。ところが、上司との相互理解の大切さに目覚め、成長への大きな糧にしてくれたことを、とても嬉しく思いました。
若者の感受性をそのまま理解してほしいため、匿名性に配慮したうえで、手紙の本文をほぼ原形のままご紹介します。