トラックドライバーが足りなくなる「物流の2024年問題」に対応するため、政府が2023年10月初旬にまとめた「物流革新緊急パッケージ」では、玄関前などに荷物を置く「置き配」を広げる方針が盛り込まれた。
あわせて、置き配を選んだ人に、ポイントを付与する実証事業を近く始める予定だ。しかし、置き配がドライバー不足の根本的な解決策にはならないという不満の声も多い。
「再配達」は全体の12%...政府、24年度に6%に半減させる方針
ネット通販が急拡大していることなどから再配達は増えており、運送業者にとっての負担は大きい。「1日に何度も足を運ばなければならない」と話す業者は多く、再配達は全体の12%にも達し、配送効率を悪化させている。
このため政府は、再配達の割合を24年度には6%に半減させる方針を掲げ、その一環として置き配を広げたい意向だ。
実証事業では、利用客がインターネット通販などで商品を注文する際、置き配やコンビニエンスストアでの受け取りなどを選んだ人に対し、ポイントを付与する仕組みを想定している。
政府は、通販業者などがポイントを付与するためにシステムを改修したりする場合はその費用を補助するほか、ポイントの原資の一部を負担するなど財政支援を行うことも検討している。具体的な付与方法やポイント数などは今後詰めるという。
安全性の問題には懸念 「盗難防止」宅配ボックス設置はまだ限定的 業者側も、荷物の破損を心配
置き配ポイントは2024年問題解決とまではいわないまでも、緩和の切り札になるのだろうか。
残念ながら、政府の置き配を普及させようという取り組みには疑問の声が多い。
大きな理由は、安全性の問題だ。
たとえば、置き配が広がっている米国では、玄関前に置かれた荷物が盗難にあう事案が後を絶たない。リスクが大きいため、置き配ではなく、勤め先や近所の友人宅に配送してもらうよう手配する人も多いとされる。
日本では最近、マンションや一軒家に宅配ボックスを設置することが増えている。宅配ボックスがあれば盗難のリスクは避けられるが、まだ設置は限定的だ。
また、「荷物が破損した場合の責任問題も心配だ」(業界関係者)との声もあり、置き配の普及が広く受け入れられるとはいえない状況だ。
「置き配」だけでドライバー不足の解決にはならず 待遇改善、「荷待ち」改善など、やるべきことはほかにも
そもそも個人宅向けの宅配便は「荷物全体の1割程度」とみられており、「荷物は企業間で配送されるものがほとんどだ。置き配だけでドライバー不足が解決されるような印象を持たれたら困る」(同)との声もある。置き配への予算措置を行うぐらいなら他に向けた方がいい、という指摘も強い。
さらに、「最も重要なのは、ドライバーの給料を上げるなどして待遇を改善し、若い働き手が集まるよう環境を整えることだ」(同)とも言われる。そのためには、荷主の都合でドライバーを長時間待たせる「荷待ち」などの改善に努めるのが先という指摘も多い。
このまま現状が変わらなければ、2030年には全国の約35%の荷物が運べなくなるとの試算も出ており、政府も「物流の24年問題は喫緊の課題」(岸田文雄首相)として危機感を持ってはいる。
だが、ドライバーの残業規制強化が始まる24年4月まで半年を切って、的外れともいえる置き配ポイントの議論をしている様は、対応の遅さをむしろ印象付けている。
(ジャーナリスト 済田経夫)