値上げ、AI(人工知能)、新たな競争相手......新しい経営課題にどう対応すべきか?
本書「コンサルの最新・戦略思考が2時間で身につく トレーニングBOOK」(宝島社)は、クイズ形式でコンサルタントの講義をわかりやすく解説した本だ。
「コンサルの最新・戦略思考が2時間で身につく トレーニングBOOK」(鈴木貴博監修)宝島社
監修の鈴木貴博さんは、経営戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。ボストン・コンサルティング・グループなどを経て創業。著書に「戦略トレーニング」シリーズなどがある。
いい商品が生まれたとき、あなたはどう考えますか?
冒頭で「あなたの戦略思考度をチェックする5つの診断」が登場する。「こんなとき、あなたの思考・行動は、どれにあてはまりますか?」とあり、こんな質問が5つ並んでいる。
問1 いい商品、いいサービスが会社の中に誕生したとき、あなたはどう考えますか?
a いい商品なので「これは売れる」と考える
b 宣伝やキャンペーンで売ることを考える
c 安くして売ろうと考える
問2 魔法のような新しい新技術が登場して社内は大騒ぎ。こんなとき、あなたはどう振る舞いますか?
a 新しいものは苦手。慎重に様子を見ようと提案する
b こういうものが大好きなので、すぐに取り寄せたり使ってみようと提案する
c 簡単に使えるか、それとも面倒かで使ったり使わなかったり態度が変わる
すると、驚きの結果が待っていた。素直にaやbやcを選んだ人は、思考の幅が狭いという。戦略思考ができていない。
逆に、全部あてはまると思った人は戦略思考をよく理解しているという。「やられた!」と思った。
重要なのは、ビジネスで困った状況において、どんな手を打つことができるのかを幅広く考えられる力。戦略オプションについて幅広く知り、どれを適用するといいのかを考える訓練を重ねることだというのだ。
本書では、以下の5つの学びの柱を取り上げている。
1 いくらで売ったらいいか? 値上げか値下げか、それとも?
2 AIにDX。次々と出てくる新技術にどう対応すべきか?
3 意外な競争相手の出現にうろたえないためには?
4 いよいよアフターコロナ。チャンスをどうモノにするか?
5 新しい需要を創出して企業を生き残らせるには
この5つの章ごとに4つの戦略があり、それぞれクイズになっている。
たとえば、「無料の力で人を動かす」戦略では、2022年6月、ドミノ・ピザが『1枚買うと2枚無料』キャンペーンを行ったところ、注文が殺到。大きな反響を呼んだが、この手のキャンペーンのメリットを尋ねている。
答えは「売上が減らない、顧客が増えやすくなる、顧客が離れにくくなる」ことだ。無料のインパクトはキャンペーンで活用できることを強調。「半額」と「1つ買うともう1つ無料」は意味が異なることを説明している。
生成AIが進化し、消滅する職業は?
生成AIが駆逐する職業を尋ねたクイズもある。生成AIがますます高度になって実用化が進むことで「ある種の人々や行為が1年後には消滅するのではないか?」というのだ。
答えは「迷惑行為の動画アップロードやそれを職業にする迷惑系YouTuber」だ。なぜなら、生成AIはますます進化し、巧妙になる。すると、ディープフェイクの動画・画像がネットを騒がせる主役になり、迷惑動画のアップロードは割に合わない活動になるからだ、と解説する。
業界を変える「破壊的イノベーション」にも驚いた。
コンパクトEVカーのライバルが、家電量販店にあるというのだ。それは何か? 答えは「電動トゥクトゥク」だ。3輪走行の屋根付きバイクで、タイを中心に普及。日本でも普通自動車免許があれば公道を運転することができ、価格は軽自動車の3分の1と格安だ。
ハイテク、ローテクに限らず、破壊的イノベーションは起きている。100円ショップの「ダイソー」もその例で、人々の生活習慣を変えるインパクトを持っている。
「制約からの需要創造」という戦略では、ファミリーマートが展開する「ファミマソックス」を取り上げている。「工夫ができるアイテムのみ取り扱う」という戦略があるが、その工夫とはなにか?
それは「サイズ展開が少ない商品を選んでいる」ことだった。限られたスペース内で売り場を充実させるため、靴下とTシャツを扱っている。靴下のサイズは2つのみ。男女に分けない。その代わりカラーバリエーションを豊富にしている。
競合との差別化として衣料分野でブランディングするという狙いは成功したようだ、と評価している。
本書は、取り上げている素材がどれも新しく、身近なものばかりだ。そう言えば、近所の酒類量販店の中に「ダイソー」がオープンした。これは「飽和状態をコラボレーションで打開する」という戦略に、当てはまると思った。
戦略思考のネタはいろいろなところに転がっている。(渡辺淳悦)
「コンサルの最新・戦略思考が2時間で身につく トレーニングBOOK」
鈴木貴博監修
宝島社
1650円(税込)