2023年10月28日に一般公開が始まるジャパンモビリティショー(旧東京モーターショー)に向け、自動車メーカーからコンセプトカーの発表が相次いでいる。
電気自動車(EV)のコンセプトカーが目立つ中、地味ながら注目されるのは、ダイハツ工業がカーボンニュートラル(CN=温室効果ガス排出量の実質ゼロ)燃料を想定した内燃機関(エンジン)の小型スポーツカーを出品することだ。
注目集まる、水素と二酸化炭素から作る合成燃料「e-fuel」 EUは2035年以降も、e-fuelを用いたエンジン車の新車販売を容認
ダイハツは、軽スポーツカー「コペン」をベースにしたコンセプトカー「VISION COPEN(ビジョン コペン)」を出品する。
注目すべきは、ダイハツが「FRレイアウトとCN燃料の活用を見据えた内燃機関の組み合わせにより、走る楽しさを極めた新たな小型オープンスポーツを提案」していることだ。
ここで言うCN燃料の定義は曖昧だが、ダイハツは使用済み食用油やミドリムシなどを原料にした次世代バイオ燃料や「e-fuel(イーフューエル)」と呼ばれる合成燃料を想定しているとみられる。
e-fuelは水素(H)と二酸化炭素(CO2)を化学反応させて作る合成燃料で、「人工的な原油」とも言われる。世界で研究段階にあるが、再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を取り出し、空気中のCO2と合成すれば、究極のカーボンニュートラルを達成できる。
e-fuelが実用化すれば内燃機関(エンジン)が生き残る可能性があるだけに、与えるインパクトは大きい。欧州連合(EU)は2023年3月、e-fuelを用いたエンジン車の新車販売を2035年以降も容認するなど、実用化に向けた機運は高まっている。
課題は、CN燃料を手ごろな価格で供給できるか 石油連盟、e-fuelの国内価格「1リットル約200円」目標だが...
ダイハツはビジョン コペンでe-fuelなどCN燃料向けの技術革新を発表したわけではないが、自動車メーカーとしてCN燃料の活用でエンジン車の生き残りを図ろうとする意志を示した意義は大きい。
しかも、ビジョン コペンは、全幅が1695ミリで、1.3リッターのエンジンを積む小型車だ。ベースのコペンがFF(前輪駆動)の軽自動車なのに対して、小型車のFR(後輪駆動)という「スポーツカーの理想」を求めた点がファンにはたまらないだろう。
今のところ、ジャパンモビリティショーに出展する自動車メーカーで、CN燃料を活用したエンジン車をアピールしているのはダイハツだけだ。
問題はe-fuelなどCN燃料を燃料メーカーなどが実用化し、手ごろな価格で供給できるかだ。
日本では、新興企業のユーグレナがミドリムシなどを原料にした次世代バイオ燃料を開発し、路線バスなどに納入している。ところが、1リットル当たり約1万円と高額だ。
海外では、e-fuelを開発・製造する米国の新興企業にポルシェなどが出資している。日本の出光興産も、この米新興企業と提携し、「日本国内で2020年代後半までに生産・供給体制の確立を目指す」と、実用化に意欲を示している。
石油連盟は将来的にe-fuelの国内価格を「1リットル約200円」にすることを目標にしているが、クリアすべきハードルは高そうだ。
今回のジャパンモビリティショーで、e-fuelなどCN燃料をめぐる展示はダイハツの他にもあるのだろうか。EVの影に隠れがちだが、カーボンニュートラルのもう一つの切り札となるCN燃料にも注目したい。
(ジャーナリスト 岩城諒)