就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか? 上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、D2C(ネット通販)支援の売れるネット広告社です。
売れるネット広告社は、創業者の加藤公一レオ氏が2010年に福岡市に設立。翌2011年にネット広告/ランディングページ特化型クラウドサービス「売れるネット広告つくーる」を株式会社Fusicと共同開発・リリースしています。
2013年に東京オフィスを開設。2017年にマーケティング支援サービス「最強の売れるメディアプラットフォーム」をリリース。2021年12月に東京オフィスを港区台場に移転。2023年10月23日に東証グロース市場に新規上場予定です。
今期の売上高は10億円の大台に乗る見込み
それではまず、売れるネット広告社の近年の業績の推移を見てみましょう。
売れるネット広告社の売上高は、2018年7月期から右肩上がりで伸びていましたが、2022年7月期には大きく減少しています。これは主に、この期から「収益認識に関する会計基準」等を適用しているためです。
ただし、この会計基準等を適用しなかった場合の2022年7月期の売上高(取扱高)は21億8890万円で前期比8.8%減となり、減収には会計基準以外の要因もあるということになります。
また、2022年7月期は営業赤字および最終赤字を計上しており、これは主に「オフィス移転や広告宣伝費などの投資を実施したこと」によるものとのことです。
2023年7月期には営業黒字および最終黒字を確保し、営業利益率は15.8%に大幅改善。2024年7月期の業績予想は売上高が10億円の大台に乗り、営業利益率は23.8%、最終利益は1.5億円を超える見込みです。
売上高の過半数は「自社プラットフォーム」への広告配信料
売れるネット広告社は「D2C向けデジタルマーケティング支援事業」の単一セグメントです。D2Cとは「Direct to Consumer」の略で、企業が自ら企画・生産した商品を消費者と直接取り引きする販売手法です。
売れるネット広告社が対象としているのは、ソーシャルメディアやECサイトを通じて販売する「ネット通販」で、以下の2つのサービスを提供しています。
「ネット広告/ランディングページ特化型クラウドサービス」は、D2C事業において必要なランディングページやCRM等の最適化された仕組みを構築し、ネット広告における費用対効果の改善を目的としたサービスです。
D2Cの仕組み構築が可能なクラウドサービス「売れるD2Cつくーる」を中心に、専任のコンサルタントによるコンサル「売れるネット広告こんさる」、ランディングページ等の作成代行を行う「売れるネット広告でざいん」を提供しています。
「マーケティング支援サービス」は、「売れるD2Cつくーる」で作成したランディングページに一般消費者を集客することを目的とし、インターネット上に広告を配信するサービスです。
自社が構築する広告配信プラットフォームを通し、自社が契約する媒体に対して広告配信ができるサービスを提供。一般消費者によるコンバージョンで料金が発生する成果報酬型広告を中心に、純広告・運用型広告も提供しています。
2022年7月期の販売実績構成比は、意外にも「マーケティング支援サービス」が53.0%と過半数を占め、次いで「売れるD2Cつくーる」が29.8%、「売れるネット広告でざいん」が11.2%、「売れるネット広告こんさる」が6.0%となっています。
平均年間給与484.1万円、平均年齢30.2歳
売れるネット広告社の従業員数は、2018年7月末の31人から、翌期以降は25人、33人、40人と推移し、2022年7月末は45人と少数です。平均年齢は30.2歳、平均勤続年数は3.6年、平均年間給与は484.1万円です。
なお、取締役(監査等委員および社外取締役を除く)4人の報酬等の総額は7807.7万円です。
大株主の状況は、加藤公一レオ氏が44.61%、株式会社レオアセットマネジメントが35.70%、加藤一恵氏(加藤公一レオ氏の配偶者)が8.92%と、代表取締役関連で約9割を占めています。
売れるネット広告社の採用サイトを見ると、東京都港区(クラウドサービス部、カスタマーサクセス部、メディア部)および福岡県福岡市(開発部)勤務の新卒採用のほか、中途採用の募集が行われています。
メディア部のメディアプランナー職は「プレミアムクラスのクライアントのメディアプランニングのポジション」で、想定年収は380万円~900万円。固定残業代の記載はありません。
健康食品・化粧品D2Cに注がれる目は、厳しさ増す?
「ネット広告/ランディングページ特化型クラウドサービス」のアカウント解約率は、2020年7月期の23%から、2021年7月期は62%、2022年7月期は58%と増加しました。
2023年7月期は46.6%まで改善。2024年7月期は35%程度まで抑制し、アカウント数は2024年7月末時点で193社となる見込みです。
売れるネット広告社の主なクライアントは、健康食品・化粧品を取り扱うD2C(ネット通販)事業者です。
健康食品会社や化粧品会社は粗利率が非常に高く、広告宣伝費に多額の費用をかける会社が多く見られますが、D2Cにより効率的な販売を行うことで、さらに利益率を高めることが可能となり、ネット広告における競争が激しくなっています。
一方、2023年版消費者白書によると、「解約したいが電話がつながらない」「いつでも解約可能という広告を見て購入し解約しようとしたら条件付きだった」など、定期購入トラブルに関する相談やSNS関連の相談件数が過去最多になっているとのこと。
定期購入トラブルでは「化粧品」や「健康食品」が相談件数の上位となっていることから、D2C事業や関連広告に注がれる視線が厳しさを増しているといえるでしょう。(こたつ経営研究所)