日立製作所が家電の値引き販売を認めない「指定価格制度」を導入する。11月に発売する最新のドラム式洗濯乾燥機を皮切りに、洗濯機や冷蔵庫、掃除機、調理家電など白物家電全般に順次拡大する。
指定価格制度の導入は家電大手ではパナソニックホールディングス(HD)に次いで2社目。長年、量販店に握られてきた価格の決定権をメーカーは取り戻せるのか。また、消費者にはメリットがあるのか。
在庫を引き取る「委託販売」のかたちに パナソニックは「指定価格」がすでに3割
日立の家電子会社「日立グローバルライフソリューションズ(GLS)」が2023年10月4日、11月に発売する最新のドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム」2機種を発表した。
洗濯容量13キロの製品が37万円前後(税込み)、12キロが33万円前後(同)という価格は日立による指定となる。制度に参加する量販店や地域販売店、通販サイトなど、新たに「日立家電品正規取扱店」の契約を結んだ約1万5500店舗だけで販売する。
指定価格制度は、メーカーが指定した価格で販売し、店舗主導による値下げや在庫処分時の値引き販売ができなくなる。
独占禁止法はメーカーによる価格拘束を禁止しているが、この制度では、メーカーは販売店の在庫リスクについて責任を持つ――つまり、売れ残った商品の返品に応じることから、独禁法に抵触しない。「委託販売」のかたちと理解すればいい。
パナソニックが2020年度から、ナノケアドライヤーやドラム式洗濯乾燥機で試験的に導入をはじめ、2022年度には対象商品を拡大し、現時点で、国内白物家電の約3割が指定価格制度による販売になり、24年に5割に増やす目標を掲げている。
日立GLSは今後1年間で、製品ラインアップの1割を指定価格制度の対象にする計画。発売済みの既存商品は指定価格の対象にならず、新製品の発売で指定価格商品のラインアップ広げていくことになる。
値下げ前提の商習慣、新製品1年で値崩れが実態...制度導入で市場の「二極化」も
指定価格制度の導入には、値崩れを防ぎ、収益を確保したいという狙いがある。
実態はどうなのか。業界関係者によると、白物家電は、商慣習として値下げが前提となっていて、新製品の発売から1年もすると、2割~4割引きで販売されることが多い。
このため、メーカーは機能が大して進化していなくても、毎年のようにマイナーチェンジした新製品を投入し、値崩れした価格をもとに戻す。ただ、新発売時に「在庫処分」の形で大幅値引きが行なわれ、メーカーや販売店の利益を圧迫する。
指定価格制度は、こうした悪循環を転換する期待がある。
日立はこれまで、値下げ原資になる実質的な販売奨励金の負担を含む形で卸売価格を設定していた。だが、指定価格なら、その負担がなくなることで、一定の卸売価格を確保できる。
消費者が値下がりを待たなくなれば、販売のピークが前倒しされるのもプラス。また、無駄なマイナーチェンジがなくなれば、無駄に使っていた経営資源を新たな製品開発に振り向けられる。
もっとも、消費者の低価格志向は根強く、他社製品に顧客が流れてシェアが低下する可能性がある。パナソニックは調理家電などの一部製品で市場シェアが下がったという。
今回、日立GLSがまず指定価格で販売するのはドラム式洗濯乾燥機という高付加価値製品で、パナソニックと日立で計6割のシェアを占める。
パナソニックがナノケアドライヤーで販売価格を維持しながらトップシェアを維持しているように、他社と差別化ができる高付加価値商品だからこそ、指定価格制度が成り立つということだろう。
逆に言うと、機能に差がない製品は値引きができる海外メーカーの商品がシェアを高める可能性もあり、市場の「二極化」が進む可能性もある。それだけに、メーカーとしての戦略が改めて問われることになる。
販売店は差別化どう図る...消費者の買い方にも変化、転換点迎える「安さ指向」
販売店や消費者にとっては、どんなメリット、デメリットがあるのか。
販売店は売れ残るリスクが無くなり、仕入原価を切った在庫処分も不要となるメリットが大きい。値崩れを心配せず安心して販売もできるが、一方で、どの店でも同じ価格となれば、その店で買うメリットが問われることになる。
店で確認し、ネットで買うという「販売店のショールーム化」が加速するかもしれない。接客力やアフターサービスによる差別化をどう図るかが問われることになりそうだ。
消費者にとっては、値引き交渉ができなくなるが、どこが安いか、店やネットで探す必要がなくなるのはメリットだろう。
いずれ安くなると見込んで、欲しい製品の購入を遅らせる必要もなくなる。アフターサービスの充実度、自宅からの距離などが店を選ぶ基準として重要になるかもしれない。
いずれにせよ、デフレが終局に差し掛かり、安さだけを追い求めるような消費者心理も大きな転換点を迎えているのであれば、指定価格制度に消費者も慣れていく必要がある。(ジャーナリスト 済田経夫)