入社2年目の若手社員がメンタル不調から立ち直り、大ブレイクした理由とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「4」中編】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~部下の心を動かした『胸アツ』エピソード」では、実際にあった感動的な現場エピソードを取り上げ、「上司力(R)」を発揮する方法について解説していきます。

   今回の「エピソード4」では、<入社2年目の若手社員がメンタル不調から立ち直り、大ブレイクした理由とは?>というエピソードを取り上げます。

社内アンケート100件回収を次の目標に!

   <入社2年目の若手社員がメンタル不調から立ち直り、大ブレイクした理由とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「4」前編】>の続きです。

   T課長は元気を取り戻したHさんと面談し、2カ月目の目標を話し合いました。

   そして、営業現場で使える調査データの分析レポートづくりへの第一ステップとして、前任者が配信していた分析レポートの使い勝手の良し悪しを、現場の営業担当者に聞くことから始めることにしました。

   具体的には、Hさん自身の提案をもとに、営業担当者を対象に社内アンケートを行い、回答を100件集めるという目標を立てたのです。

   T課長は、Hさんにこう言いました。

「この1カ月で現場営業パーソンから回答を100件集めるにはどうすればいいか、その工夫はあなたに任せるよ」

   Hさんは自分でやり方を考え、営業担当者に向けて社内メールでアンケートをいっせいに送りました。その結果、1週間で30件ほどの回答が集まりました。営業担当者はみんな忙しく、メールでのアンケート送付だけでは100件の回答を集めるのは難しかったのです。

   「30件しか集まりませんでした」と言いに来たHさんに、T課長は言いました。

「100件集める仕事の責任者は、あなただよね。まだ3週間もあるのだから、どうすればあと70件集められるか考えよう」

   これに、Hさんも答えます。

「営業部門には同期がいるので、直接声をかけてみます」

   仕事を任せて2週間たった定例ミーティングでT課長がHさんに報告を求めると、50件ほどの回答が集まっていました。

「期日まであと2週間だけど、残り50件はどうやって集めるの?」

   T課長が尋ねると、Hさんが答えました。

「お世話になった営業部門のベテランの庶務係の方一人ひとりにお願いして、周囲の営業担当者に声をかけてもらいます。」

別に100件に届かなくてもいいのでは...

   仕事を任せてから3週間後、また報告を求めると、67件の回答が集まっていました。つまり、あと1週間で、33件以上の回答集めが必要なのです。

   T課長が「残りの1週間で33件を集めるのは、大変なハードルだね」と言うと、Hさんは妥協を自己正当化する言い訳を始めました。

「67件も回答が集まったので、別に100件でなくても、集まった分を分析すれば十分ではないですか...」

   するとT課長は...Hさんを厳しく叱ったのです。

「妥協しては絶対にダメだ。あなたはこの仕事の責任者だ。あと1週間も時間が残っているのに、どうして今諦めるんだ。自分の仕事にプライドはないのか。本当に、他にやり方はないのかな?」

   実は、T課長の頭の中には、あと33件の回答をすぐに集める方法がありました。しかし答えがあっても、上司はそれを安易に教えてはいけません。その瞬間に、仕事の当事者は部下ではなくなってしまうからです。

   あくまで仕事の当事者はHさんであり、本人が自分でやり方を考えなければ意味がないのです。

勇気を出して乗り越えた壁

   ただ、T課長には、Hさんの頭の中には同じ答えがあることをわかっていました。Hさんは、言い出せずに葛藤していたのです。

   じっくり本人の様子を見守るT課長を前に、Hさんはついにその答えを口にしました。

「営業部門の課長の皆さんに直接依頼に行けば、その課の部下の方々から一挙にアンケートが集められると思います」

   Hさんがこの方法に踏み出せなかったのは、自分が営業部門にいた時、当時の課長から毎日詰められた嫌な記憶が強く残っており、そのためにメンタル不調を抱えてしまったトラウマがあったからです。その課長に直接依頼に行くのは、心理的にハードルが高い仕事だったのです。

   T課長は言いました。

「なるほど。それはよい考えだね。この仕事の責任者はあなただから、やるかやらないかはあなた次第。来週の報告を待っているよ」

   そして、1週間後。定例チームミーティングの場で彼に「アンケートの回答数はどうなったかな?」と尋ねると、Hさんはすっと立ち上がり、晴れ晴れした顔で言ったのです。

「102件集まりました!」

   その瞬間...Hさんの仕事ぶりを見守っていたチームの先輩たち全員が立ち上がり、スタンディングオベーションを贈りました。Hさんの辛い気持ちを、みんな共有していたからです。

「よくやった~」
「頑張ったね!」
「大きな壁を乗り越えたね!」

   大騒ぎする会議室の様子を、外を通る他部署の人たちが何事かとのぞきに来る始末でした。

   ...ところが、です。そんなHさんの前には、もう一つの壁が待っていたのです。

   この続きは<入社2年目の若手社員がメンタル不調から立ち直り、大ブレイクした理由とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「4」後編】>で紹介していきます。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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