勇気を出して乗り越えた壁
ただ、T課長には、Hさんの頭の中には同じ答えがあることをわかっていました。Hさんは、言い出せずに葛藤していたのです。
じっくり本人の様子を見守るT課長を前に、Hさんはついにその答えを口にしました。
「営業部門の課長の皆さんに直接依頼に行けば、その課の部下の方々から一挙にアンケートが集められると思います」
Hさんがこの方法に踏み出せなかったのは、自分が営業部門にいた時、当時の課長から毎日詰められた嫌な記憶が強く残っており、そのためにメンタル不調を抱えてしまったトラウマがあったからです。その課長に直接依頼に行くのは、心理的にハードルが高い仕事だったのです。
T課長は言いました。
「なるほど。それはよい考えだね。この仕事の責任者はあなただから、やるかやらないかはあなた次第。来週の報告を待っているよ」
そして、1週間後。定例チームミーティングの場で彼に「アンケートの回答数はどうなったかな?」と尋ねると、Hさんはすっと立ち上がり、晴れ晴れした顔で言ったのです。
「102件集まりました!」
その瞬間...Hさんの仕事ぶりを見守っていたチームの先輩たち全員が立ち上がり、スタンディングオベーションを贈りました。Hさんの辛い気持ちを、みんな共有していたからです。
「よくやった~」
「頑張ったね!」
「大きな壁を乗り越えたね!」
大騒ぎする会議室の様子を、外を通る他部署の人たちが何事かとのぞきに来る始末でした。
...ところが、です。そんなHさんの前には、もう一つの壁が待っていたのです。
この続きは<入社2年目の若手社員がメンタル不調から立ち直り、大ブレイクした理由とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「4」後編】>で紹介していきます。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。