3割ストレッチが本人の成長を促す
このエピソードで、T課長の育成方法に学ぶべきは何か。以下、3点を挙げましょう。
第1に、「3割ストレッチの法則」を意識して活用することです。
部下に仕事の目的と工夫の余地をセットで任せ、本人が仕事の当事者であることを自覚すると、自分の仕事の責任を負うようになり、主体的に工夫し始めます。
自らの工夫がうまくいかなければ、原因を振り返り反省する姿勢も出てきます。自分自身が考えた仕事ですから、失敗しても上司や周囲の人のせいにせず、何とか自分で改善しようと考えます。
その際に、部下自身による改善を促すには、失敗のリスクがない簡単な仕事ばかりではなく、「少し背伸びが必要な仕事」を上手に任せることが有効です。これを私は「3割ストレッチの法則」と呼んでいます。
部下育成に不慣れな上司が部下に仕事を任せるときは、手取り足取り教えるか丸投げかになりがちです。手取り足取り教えれば、部下はミスなく仕事を完遂できます。しかし、それでは部下はいつまでたっても上司の指示に従う作業者のままです。「次はどうすればいいですか」と、上司に指示を仰ぎ続けかねません。
一方の丸投げだと、経験の浅い部下なら何からやれば良いかが分からず、仕事は止まったままとなり、結局周囲のフォローが必要です。これも成長につながりません。