入社2年目の若手社員がメンタル不調から立ち直り、大ブレイクした理由とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「4」前編】(前川孝雄)

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   「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~部下の心を動かした『胸アツ』エピソード」では、実際にあった感動的な現場エピソードを取り上げ、「上司力(R)」を発揮する方法について解説していきます。

   今回の「エピソード4」では、<入社2年目の若手社員がメンタル不調から立ち直り、大ブレイクした理由とは?>というエピソードを取り上げます。

悩みは「指示待ち部下ばかり」?!

   多くの上司から共通して挙げられる悩みは、「部下に主体性がない」。

「部下が指示待ちで、自ら動いてくれない」
「『〇〇はどうすればいいですか?』『△△は誰に相談すればいいですか?』と、何事も指示を仰ぎに来る」
「これでは、プレイングマネジャーでもある自分の仕事も回らない...」

――というわけです。

   しかし、私が営む会社が行う「『上司力(R)』研修」で、受講者にこの悩みの真因を掘り下げてもらうと、実は...

「失敗しないかと、部下を信用できていなかった」
「部下の仕事の結果は気にしても、本人の気持ちには無関心だった」
「部下に仕事を任せきれていなかった...」

――などの意見が出始めます。

   ただし、これは深く内省した結果、気づけるもの。日々忙しい上司ほど、無自覚であることが多いものです。

任せた仕事の当時者は部下本人

   上司の皆さんは、心のどこかでこんな固定観念を持っていませんか?

「自分の最終判断なしに、チームの仕事の質は担保できない」
「経験を積んできた自分の考えや、やり方が正しいはずだ...」

   また、部下独自のアイデアや、自分と異なる仕事の進め方を退けてはいませんか。それでは、部下は主体的に働けません。

   さまざまな上司のみなさんを観察する中で、気づくことがあります。

   それは、いつもバタバタと余裕なく走り回っている上司と、一方で涼しい顔で自分の仕事を卒なくこなしながら、チームもスムーズに動いている上司がいることです。かつ、後者の上司は平然と「まだ余裕ありますよ」と言いながら、チームは高業績なことが多いのです。

   両者の違いを一言で言うなら、部下に仕事をしっかり任せられているかどうか。

   部下一人ひとりが自ら動き、互いに援け合える組織風土をつくれているかです。そのためには、「任せた仕事の当事者は部下本人」であると心得て、部下の主体性を促す育成が求められるのです。

   とはいえ、仕事を任せきれない心配な部下もいるでしょう。特に経験の浅い若手社員の場合は、苦慮するところでしょう。

   今回のエピソードは、そうした部下をいかに育成するか、参考にしてほしい事例です。

朝9時に着席することが仕事!?

   Hさんは入社して1年間、営業部署の仕事に就いていましたが、メンタル不調に陥り、休みがちとなりました。

   そして、社会人2年目のタイミングで、T課長が束ねるマーケティングチームに異動してきました。最初の面談では全く元気がなく自信もない様子で、T課長の目を見て話せないほどだったといいます。

   そこで、T課長はHさんの役割と仕事の任せ方を思案したうえで、次のように伝えました。

「私はあなたに、今後このチームで1年をかけて、営業部門の担当者が活用できる調査データの分析と配信の仕事ができるようになってほしいと思っている。Hさんは、マーケティングチームで唯一、営業部門での現場経験があるからね」
「でも、いまのコンディションで急に初めての仕事に取り掛かるのは難しいと思う。だから最初の1カ月は、朝9時までに出社して、席に座ることを目標にしてほしい。その達成のためにどうすればいいかは、自分で考えて工夫してほしい」

   Hさんは驚いた様子で、聞き直しました。

「それでいいんですか?」

   たしかに朝9時に出社するだけでは、仕事とはいえません。しかし、その時点のHさんはメンタル不調なのですから、T課長は慎重にステップを刻んだのです。

チームメンバーに支えられて最初の目標達成へ

   Hさんは努力と工夫を始めましたが、最初は朝9時までに会社の席に座ることがうまくできませんでした。満員電車の通勤だけで疲れ果て、「今、途中下車して休んでいます。今日は間に合いません」と電話があることも、しばしば。

   T課長はチームメンバー全員に、「Hさんは朝9時出社に向けて工夫しているところだから、応援してあげて」と伝えました。Hさんからの電話を受けた先輩メンバーは「わかった、今日はつらかったんだね。明日また頑張ろう」などと言葉をかけ続けてくれました。

   そして、彼が朝9時前に来て席に座れた日には、みんなで「今日はよくやったね」と声をかけてくれました。そんな周囲の支えが力となり、Hさんの体調は徐々に安定し、1カ月後には毎日9時に出社できるようになりました。

   本人に聞くところでは、営業部門にいた1年間は体調や心の状態を気にかけてくれる先輩や上司はおらず、一方で業績管理だけは徹底される毎日。

「お客さんとのアポイントは、どれだけ取れたか?」
「目標の数字には、まだこれだけ足りないぞ!」

   毎週のように上司から詰められた結果、彼はつぶれてしまい、T課長のチームにやってきたのでした。

   Hさんは職場の中に自分の居場所を見つけたことで、安心して会社に来れるようになりました。表情もすっかり変わり、T課長の目を見て話せるようになりました。

「僕もやればできるんです。朝9時に会社に来られるんですよ」

   そう元気に言えるまでになりました。

   T課長は、ほほ笑ましく思ったものの、これはあくまでスタートラインです。

   そして...このあと、Hさんには大きな試練が待ち受けていたのです。

   この続きは<入社2年目の若手社員がメンタル不調から立ち直り、大ブレイクした理由とは?【部下の心を動かした『胸アツ』エピソード「4」中編】>で紹介していきます。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。


【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等約40冊。最新刊は『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)。

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