携帯電話大手のNTTドコモと、インターネット証券大手のマネックスグループ(G)が資本業務提携した。共同出資で持ち株会社を設立し、マネックス証券がその傘下に入り、ドコモの連結子会社になる。
ドコモはライバルに後れを取る金融事業に本格的に参入し、顧客基盤をテコに非通信分野の収益力を高める狙いがある。マネックスGは厳しい競争が続くネット証券の契約者の拡大を図る。
マネックスG 松本会長「巨人と手を組む。非常にエキサイティング」
2023年10月4日に東京都内で記者会見したドコモの井伊基之社長は「ネット証券ならではのサービスにドコモの顧客基盤を生かし、初めての方でも手軽で簡単な資産形成サービスを提供していく」と述べた。
マネックスグループの松本大会長は「ドコモという巨人と、起業家精神あふれる個人の集合体であるマネックスが手を組むことは、非常にエキサイティングだ」と語った。
提携のスキームは、まず中間持ち株会社「ドコモマネックスホールディングス」を設立し、そこがマネックス証券の全株式を保有する。持ち株会社の出資比率はマネックス51%、ドコモ49%とするが、取締役の過半はドコモが選任する。
このため、「実質支配力基準」に基づき、新会社とマネックス証券はドコモの連結子会社になり、マネックスGにとっては持分法適用会社になる。
マネックス証券の社名は変更せず、社長も現任の清明祐子氏が務め、マネックスのブランドは維持する。
ドコモの出資額は約500億円になり、新会社の発足は2024年1月4日を予定する。
出遅れドコモ、「dポイントクラブ」9600万人の顧客基盤生かす...いずれは「ドコモ銀行」も?
今回の提携の狙いは、ドコモにとっては明快だ。
携帯電話各社はポイントを軸とした「経済圏」や金融サービスと連携した料金プランなどで競っている。
ここで「台風の目」と言えるのが楽天グループ。ネット通販の「楽天市場」を軸に1億人レベルの会員基盤をもち、楽天銀行や楽天証券などの金融サービスも備える。
特に、楽天モバイルが、つながりにくさを解決する切り札とされる「プラチナバンド」を取得する見通しになり、「経済圏」の総合力で攻勢をかけてくるとみられる。
KDDIは「Ponta」のポイントを使い、傘下に「auカブコム」、「auじぶん銀行」を持ち、2023年9月から金融サービスを利用すると、金利優遇などの特典が受けられる新料金プランを開始するなどしている。
ソフトバンクも「PayPay ポイント」を軸に、「PayPay 証券」「PayPay 銀行」のサービスを強化。10月から「PayPayポイント」の還元率を上乗せする新プランを始めている。
これに対し、ドコモはグループ内に銀行、証券を持たず、出遅れていた。「dポイントクラブ」9600万人という顧客基盤を生かし、マネックスGとの提携で、「dポイント」や決済サービスをマネックスでの取引で利用できるようにするとともに、ドコモのアプリで証券口座の開設ができたるようにする見通しだ。
こうした金融取引や口座開設などに応じ「dポイント」を還元するほか、クレジットカード「dカード」による入出金や積み立ても可能にする。さらに、この延長線上で、いずれ「ドコモ銀行」を持つとの観測も強まっている。
マネックスGに「じり貧」の危機感か? 「手数料無料化」とは一線、有料を維持
一方のマネックスGにとっては、このままではじり貧に陥りかけない危機感のなかでの決断だったとみられる。
創業者の松本氏は米大手金融グループのゴールドマン・サックスGS)のトレーダーとして名をはせ、最年少でパートナー(共同経営者)になったが、日本でネット証券が黎明期を迎え、「遅れればチャンスはない」とGSでの地位を投げうち、1999年にマネックス証券を起業した。
ただ、ネット証券は近年、顧客の奪い合いになり、手数料引き下げ競争が激化して、各社の体力を奪っていった。その中で、SBI証券(1000万口座)と楽天証券(900万口座)の2強体制が鮮明になるなか、マネックスは200万口座にとどまっている。
そして、最後の一撃ともいえるのが、日本株の売買手数料無料化だ。SBIが9月30日からの実施を打ち出し、楽天が10月1日からと、追随した。
マネックスはこれまでも、投資信託の銘柄選定のサポートなど手数料以外の顧客サービスに力を入れて対抗してきたが、個人投資家には十分響かなかった。
SBIなどの無料化とも一線を画し、今回の提携でも無料化しない方針を維持するとしている。
このため、「このままでは顧客基盤を崩されると懸念したのだろう」(業界筋)といわれている。
ドコモとの提携で、これまでの「2026年度に300万口座」の目標を「500万口座」に引き上げた。マネックスGの利益としては、証券の半分をドコモに売ったのに伴い半減した分が、規模が倍になれば元に戻るという計算か。
ドコモへの株式売却価益は182億円。成長領域と位置づけるアセットマネジメント(資産運用)ビジネスを中心に投資を進める方針と伝えられるが、具体像は不明だ。
証券界で一世を風靡した松本氏の次の一手が注目される。(ジャーナリスト 白井俊郎)