2024年から変わる「住宅ローン減税」の制度 注意すべきポイントは?...専門家が解説(中山登志朗)

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   LIFULL HOME'S総研の中山です。2023年6月中旬、国交省から2024年以降の住宅ローン減税の変更点について、資料が公表されました。

   これは、新築住宅を購入予定、もしくは、中古住宅を購入して外皮(屋根や外壁ほか)を含む大規模なリフォーム&リノベーションを考えているユーザーにとっては、とても重要な変更となります。にもかかわらず、周知が進んでいないことを危惧した国の対応として、公表されたものだと考えられます。

   制度の変更まで、すでに半年を切っています。ですから、新築住宅の購入や建設を検討している人は、住宅の省エネ性能の違いで、受けられる住宅ローン減税に大きい差異が発生することをご認識いただき、しかるべくご対応が必要となります。

国交省、住宅ローン減税において、「省エネ基準適合」を必須要件化に

   2022年、住宅ローンの控除率が年1%から0.7%に引き下げられました。その際、主に減税制度を補完し、また、省エネ住宅の普及を促進する目的で、住宅性能(主に、省エネ性能)の違いによって、年末の住宅ローン元本の上限に、段階的な差が設けられました(それ以前は、長期優良住宅であるか否かのみでした)。

   ところが、2024年からは、その控除対象の元本の上限が引き下げられることとなります。同時に、いわゆる一般住宅(省エネ性能について、基準に達していない新築住宅。もしくは、省エネ性能を考慮せずに建設された新築住宅)は、住宅ローン減税の対象外――つまり、新築住宅を建てても買っても、住宅ローン控除が全く受けられなくなります。

   2022年に制度変更が実施された際、一般住宅は2024年以降も元本の上限が2000万円と設定されました。そして、控除期間は13年から10年に圧縮されるものの、住宅ローン控除の対象だったのですが、それが一気に対象外となりました。

   なお、2023年中に建築確認を受けた一般新築住宅、および2024年6月までに竣工している一般新築住宅については上限2000万円、期間10年で、住宅ローン控除の対象となる「救済措置」は用意されています。

   この制度変更は、「改正建築物省エネ法」と密接な関わりがあります。

   同法が施行される2025年4月以降は、原則として全ての建築物について省エネ基準への適合が義務化されます。ですから、施行に先立って、省エネ基準に適合した住宅を増やすため、住宅ローン減税においても2024年1月から省エネ基準に適合していることを必須要件化した――資料にはそう記されています。

   この省エネ基準に適合していることの証明には、建設住宅性能評価書、もしくは住宅省エネルギー性能証明書が必要です。

   どちらも住宅を購入・建築したユーザーが単独で取得することは困難ですから、設計者、施工者、仲介事業者のサポートが必要となります。

新築住宅は、きわめて大きな制度変更を実施

   新築住宅においては2025年4月の省エネ基準適合義務化を待たず、省エネ基準適合を住宅ローン減税の必須要件とすることで、事実上制度の開始を前倒ししたことになります。

   この背景には2050年のカーボン・ニュートラル実現、および2030年までに温室効果ガスの排出26%削減(2013年度比)に向けての施策が遅々として進まず、現状では温室効果ガスの削減が目標を下回っていることが挙げられます。

   ちなみに、住宅・不動産分野での温室効果ガス削減目標は、2021年に早くも見直され、新築建築物・住宅の省エネ性能の向上を根拠として、2割増の約889万キロリットルと設定されました。

   シェアも約6240万キロリットルという総削減目標の14.2%に2ポイントほど増えていますから、その意味でも、新築住宅の省エネ性能の向上は「待ったなし」の状況にあるといえるでしょう。

   少なくとも国の危機感が伝わってくる数値の拡大であることは確かです。

中古住宅の住宅ローン減税制度はどうなる?

   では、一方の中古住宅に関する住宅ローン減税制度はどうかというと、2022年の変更以降は変わりがありません。

   すなわち、長期優良住宅などの認定省エネ住宅を中古住宅として購入した場合は、住宅ローン控除の元本上限が3000万円で年0.7%の控除が10年間適用されます。ですから、10年間最大で210万円の控除を受けることができます。

   さらに、認定省エネ住宅以外の一般住宅においても、元本上限が2000万円に減額されますが、同じく年0.7%の控除が10年間適用され、10年間最大で140万円の税控除が受けられます。

   新築の一般住宅は住宅ローン減税の対象外にされてしまうのに、なぜ中古の一般住宅は変わらず控除の対象となるのか? また、新築住宅よりも中古住宅が制度上優遇されるのは、これまで聞いたことがない――そう違和感を覚える方もいらっしゃるかと思います。

   これは、ひとえに、住宅建設が環境に与える負荷の大きさによるものです。

   木造住宅は新築の場合、温室効果ガスを平均で約230㎏/平方メートルを排出し、鉄骨造はその約2倍、鉄筋コンクリート造は約2.5倍とされています。だから、環境負荷はきわめて高く、今後可能な限り長く使用する住宅の性能を新築時に高く設定しておくこと――つまり、省エネ基準にあらかじめ適合させておくことは大変重要なポイントになり得ます。

   ところが、中古住宅=既存住宅のため、上記の住宅・不動産分野での温室効果ガス削減目標の対象にはなりません。したがって、中古住宅を購入・取得して省エネ改修を実施した場合には、相応の補助金を出すこととする。そして、新築住宅とは違った方法で省エネ対策を推進し、住宅ローン減税は継続しているのです。

断熱性能、省エネ性能の高い住宅のメリットを理解して、住宅選びを

   今後、住宅性能、特に省エネ性能の違いによって住宅ローン減税制度、補助金制度、さらには住宅ローン優遇金利の適用場面においても、明確に区分されるようになることが確実視されています。

   金融機関も環境負荷が高く、温室効果ガスの排出量が大きい住宅に、積極的に融資を続けることが徐々に難しくなるからです。

   ただし、住宅性能が高いと購入時のコスト(イニシャルコスト)も相応に高いため、そのハードルを超え難いユーザーがいることも事実です。

   もっとも、イニシャルコストは高くても、光熱費などのランニングコストが安価に抑えられること。また、補助金もさまざま用意されていること。さらには、室内の寒暖差が少なく、結露によるカビやダニの発生も抑えられること......。

   こうした断熱性能、省エネ性能の高い住宅のメリットを理解し、より「お得に快適に」日々暮らすことができる住宅を購入・建設していただきたいと思います。(中山登志朗)

中山 登志朗(なかやま・としあき)
中山 登志朗(なかやま・としあき)
LIFULL HOME’S総研 副所長・チーフアナリスト
出版社を経て、不動産調査会社で不動産マーケットの調査・分析を担当。不動産市況分析の専門家として、テレビや新聞・雑誌、ウェブサイトなどで、コメントの提供や出演、寄稿するほか、不動産市況セミナーなどで数多く講演している。
2014年9月から現職。国土交通省、経済産業省、東京都ほかの審議会委員などを歴任する。
主な著書に「住宅購入のための資産価値ハンドブック」(ダイヤモンド社)、「沿線格差~首都圏鉄道路線の知られざる通信簿」(SB新書)などがある。
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